↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
校長の息子にいじめられ退学した俺、すべてを録画していた短編  作者: simamu


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
4/5

第4話 もう誰も、お前を守らない

翌朝。


俺のスマートフォンに、黒田さんから再び連絡が入った。


『神谷くん。昨日話した件で、重要な進展があった』


そのメッセージを見た瞬間、胸の奥がざわついた。


校長夫妻について、何か新しい事実が判明したのだろうか。


俺はすぐに返信した。


『何が分かったんですか?』


返事は、すぐに届いた。


『今日、会って直接説明する。できれば午前中に時間を作ってほしい』


俺は短く了承し、指定された場所へ向かった。


***


待ち合わせ場所に着くと、黒田さんはすでに席に座っていた。


テーブルの上には、分厚いファイルとノートパソコンが置かれている。


「来てくれてありがとう」


「それで、何が分かったんですか?」


黒田さんは一度周囲を確認してから、ファイルを開いた。


「学校の会計に関する資料だ。複数の関係者から情報提供があって、過去の支出記録と照合できた」


「支出記録……?」


「ああ。学校の運営に使われるはずの金が、実際には別の用途に流れていた疑いがある」


黒田さんは、資料の一枚を俺の前に置いた。


そこには、学校関連の業務を請け負った会社の名前と、支払われた金額が記載されていた。


「この会社、学校の設備工事を請け負っていることになっている。ところが、記録を確認すると、契約内容と実際の作業に食い違いがあるんだ」


「それって……」


「架空の工事や、実際の金額を水増しした契約があった可能性がある。さらに、その会社と校長の夫には、以前から取引関係があった」


俺は息をのんだ。


「つまり、学校のお金を……?」


「不正に流用していた可能性がある。もちろん、最終的な判断は捜査機関がすることになる。ただ、複数の記録が一致している以上、見過ごせる話じゃない」


黒田さんは、もう一枚の資料を取り出した。


そこには、支出を承認した人物の名前が並んでいた。


その中に、校長の名前もあった。


「校長は、これらの支出を承認していた。夫が関係する会社に金が流れていることを、本当に知らなかったのか。それも調べる必要がある」


俺は、しばらく言葉が出なかった。


蓮を守るために、俺の訴えを握りつぶした校長。


その裏で、学校のお金まで不正に扱われていたのだとしたら。


俺が学校から追い出されそうになったことも、ただの偶然ではなかったのかもしれない。


「……どうして、ここまでして隠そうとしたんでしょうか」


思わず、そう尋ねた。


黒田さんは少し考えてから答えた。


「一つの問題が明るみに出れば、ほかの問題まで調べられる。そう考えた可能性はある。ただ、動機については証拠を確認しなければ分からない」


彼は、ファイルを閉じた。


「だからこそ、今回は警察に相談する。情報提供だけで終わらせるつもりはない」


「……お願いします」


俺は、深く頭を下げた。


「俺みたいな思いをする人が、もう出ないようにしてほしいです」


黒田さんは、真剣な表情でうなずいた。


「分かった」


その一言を聞いて、俺はようやく息を吐いた。


ここから先は、俺だけの問題ではない。


学校という場所で、誰かが傷つけられ、その声が無視される。


そんなことが二度と起きないようにするためにも、隠された事実を明らかにしなければならなかった。


***


その日の午後。


校長室には、校長夫妻が向かい合って座っていた。


机の上には、教育委員会から届いた追加の調査通知が置かれている。


校長は何度も書類を読み返していた。


「……どうして、ここまで大きな問題になってしまったの」


「今さらそんなことを言っても仕方がないだろう」


夫は苛立った様子で答えた。


「学校の会計まで調べられる可能性がある。あの動画を出した男が、余計なことを掘り返しているんだ」


「でも、もし本当に調べられたら……」


「だから、今は余計なことをするなと言っている」


夫は声を荒らげた。


「これ以上、誰かに話をするな。分かっているな?」


校長は黙ってうなずいた。


そのときだった。


コンコン、と扉がノックされた。


「校長先生、失礼します」


入ってきたのは、学校の事務職員だった。


「お話し中に申し訳ありません。お二人に、お客様がいらっしゃっています」


「誰ですか?」


校長が尋ねると、職員は緊張した表情で答えた。


「警察の方々です」


夫妻の顔から、血の気が引いた。


「……警察?」


夫が立ち上がる。


「何の用だ。学校に警察が来るような問題はないはずだ」


「詳しいことは、直接お話ししたいとのことです」


職員がそう告げた直後、校長室の扉が再び開いた。


数人の警察官が入ってくる。


「校長先生、そしてご主人ですね」


先頭の警察官が、二人を見渡した。


「学校関連の資金について、確認したいことがあります。お話を伺えますか」


「資金だと? 何かの間違いじゃないのか」


夫は、強気な態度を崩さなかった。


「私たちは、正当な契約に基づいて仕事をしている。何も問題はない」


「その点も含めて確認させていただきます」


警察官は落ち着いた声で答えた。


「関連する契約書、支出記録、送金記録などについて、捜査を進めています。すでに複数の関係者から話を聞いており、資料との照合も行っています」


校長は、震える手を机の下で握りしめた。


「……私は学校のために働いてきました。生徒たちのために、ずっと……」


「その点についても、お話を伺う必要があります」


警察官は、手元の書類を確認した。


「学校の会計処理について、不自然な支出が複数確認されています。校長先生が承認した記録も残っています」


「それは……!」


校長の声が裏返った。


「私は、詳しいことまでは……」


「では、なぜ承認したのか。契約内容を確認していたのか。その点を説明していただくことになります」


校長は口を閉ざした。


夫が割って入る。


「待て。妻は学校の責任者だ。会計の細かいことまですべて把握しているわけがないだろう」


「ご主人にも確認したいことがあります」


警察官は、別の書類を取り出した。


「学校関連の業務を請け負った会社との取引についてです。実際の業務内容と契約書に記載された内容に食い違いがある。さらに、学校から支払われた金の一部が、ご主人の関係する口座へ移動している記録も確認しています」


夫の表情が変わった。


「……何を根拠にそんなことを」


「すでに確認できている記録に基づいています。詳しい点については、これから捜査を進めます」


「そんなもの、何かの間違いだ!」


夫が声を荒らげた。


だが、警察官たちは動じなかった。


「その点も含め、説明していただきます」


校長は夫を見た。


夫も校長を見た。


二人の視線が交差する。


そこにあったのは、互いを信じる気持ちではなかった。


自分だけは助かりたい。


そんな思いが、互いの表情から透けて見えていた。


***


数時間後。


警察署では、夫妻に対する事情聴取が続いていた。


最初、二人は不正を否定していた。


契約は正当だった。


会計処理は担当者に任せていた。


自分たちは詳しいことを知らなかった。


そう繰り返していた。


しかし、警察が提示した資料は、二人の説明を少しずつ崩していった。


契約書に記載された工事内容と、実際の作業記録の食い違い。


実際の金額を大きく上回る請求。


複数の口座を経由した送金。


そして、その支出を承認した校長の署名。


さらに、学校の会計を担当していた元職員からも、重要な証言が得られていた。


不自然な支出について確認した際、上から処理を進めるよう指示されたこと。


疑問を口にした職員が、担当から外されたこと。


記録の一部について、説明を求めても回答が得られなかったこと。


一つ一つの事実が積み重なっていった。


「……私は、夫に言われたとおりにしただけです」


校長が、ついに口を開いた。


「私は詳しいことは知りませんでした」


その言葉を聞いた夫が、勢いよく顔を上げた。


「おい! 何を言っている!」


「だって、あなたが……!」


「黙れ!」


二人の言い争いが始まった。


だが、警察官は冷静に告げた。


「お二人の説明は、これまでの記録や証言と一致していない部分があります。引き続き、慎重に確認を進めます」


その時点で、夫妻はまだ理解していなかった。


これまで、自分たちがどれほど多くの人間を黙らせてきたのか。


そして、今度は自分たちが、記録と証言によって追い詰められる側になったのだということを。


***


翌日。


俺は、自宅で黒田さんからの連絡を待っていた。


スマートフォンが震えたのは、昼を少し過ぎた頃だった。


『神谷くん。警察から正式な発表があった』


その文章を見て、俺の指先が止まった。


続けて、ニュース記事のリンクが送られてくる。


そこには、信じられない見出しがあった。


学校関係の資金を不正に処理した疑い 校長と夫を逮捕


俺は、息をのんだ。


記事によれば、学校関連の契約をめぐって不正な会計処理が行われ、学校の資金の一部が私的に流用された疑いがあるという。


警察は、校長とその夫が関与した可能性が高いと判断し、二人を逮捕した。


事件については、今後も捜査が続けられる。


俺は、記事を最後まで読み終えた。


校長。


蓮の母親。


俺の訴えを握りつぶし、学校の中で何が起きていたのかを隠そうとした人。


その人が、今度は自分自身の行為について、責任を問われることになった。


しばらくして、再びスマートフォンが震えた。


黒田さんからだった。


『まだ捜査は続く。これで全部が明らかになったわけじゃない。でも、もう簡単に隠せる状況ではないはずだ』


俺は短く返信した。


『ありがとうございます』


それ以上、何を書けばいいのか分からなかった。


嬉しいのか。


悔しいのか。


それとも、ようやく終わりが見えてきたことに安心しているのか。


自分でも、よく分からなかった。


ただ、一つだけ確かなことがあった。


俺の訴えは、無駄ではなかった。


***


その頃、学校では緊急の職員会議が開かれていた。


校長が逮捕され、夫も同じ事件で逮捕された。


学校の運営を担っていた人間が、そろって不在になったのだ。


さらに、いじめを把握しながら適切な対応を取らなかった教師たちにも、厳しい目が向けられていた。


会議室では、教師たちが沈痛な面持ちで座っている。


その中で、佐々木先生は机の上に置かれた資料を見つめていた。


何度も思い返していた。


俺が相談に来たときの顔。


震える声。


助けを求める目。


それなのに、自分は何をしたのか。


面倒なことになるのを恐れ、校長の息子だからという理由で、見て見ぬふりをした。


「……私は、教師失格だ」


誰にも聞こえないほどの声で、そうつぶやいた。


けれど、後悔したところで、時間は戻らない。


俺が受けた苦しみも、消えない。


今、教師たちが向き合わなければならないのは、その事実だった。


そして、学校の問題は、いじめだけでは終わらなかった。


会計に関する資料の一部は、すでに捜査機関によって確認されている。


学校の運営体制そのものについても、調査が必要になっていた。


この学校が、これからも今までどおりに続いていけるのか。


誰も、答えを出せずにいた。


***


その夜。


俺は机に向かい、ノートを開いた。


そこには、これまでの出来事が記録されている。


いつ、何をされたのか。


誰に相談したのか。


どんな言葉を返されたのか。


忘れないために。


なかったことにされないために。


そう思って、書き続けてきた。


けれど、今は少しだけ違う。


俺はペンを持ち直し、最後のページに一行を書き加えた。


『俺は、もう一人じゃない』


その文字を見つめていると、胸の奥が少しだけ軽くなった。


まだ、すべてが終わったわけではない。


蓮への処分も決まっていない。


学校がどうなるのかも分からない。


それでも、今までのように、何もかもを一人で抱え込む必要はないのだと思えた。


窓の外では、街の明かりが静かに輝いていた。


俺はノートを閉じた。


明日、何が起きるのかは分からない。


けれど、もう逃げない。


自分の人生を、誰かに奪わせたりしない。


そう心に決めた。


そして翌朝。


黒田さんから、最後の連絡が届いた。


『神谷くん。学校の運営についても、大きな動きがありそうだ。近いうちに正式な発表があると思う』


俺は、そのメッセージを読み終え、静かにスマートフォンを置いた。


校長夫妻の逮捕。


蓮への処分。


教師たちの責任。


そして、学校そのものの未来。


すべてに、決着がつこうとしていた。


――あと一つ。


この学校が、最後に何を選ぶのか。


俺は、その答えを見届けることにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。