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校長の息子にいじめられ退学した俺、すべてを録画していた短編  作者: simamu


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2/5

第2話 その動画が、すべてをひっくり返した

退学を告げられてから、三日が経った。

俺はもう、あの学校に通っていない。

朝、制服に袖を通す必要もなければ、教室の扉を開ける必要もない。

それなのに、目が覚める時間は変わらなかった。

午前六時半。

いつもと同じ時間に目を覚まし、ベッドから起き上がる。

机の上には、あの日からずっと開いたままのノートが置いてある。

いじめを受けた日付。

されたこと。

教師に相談した記録。

そして、学校側から退学を勧められた経緯。

すべてを書き残したノートだ。

俺はページをめくり、最後に書いた一文を見つめた。

『俺は、絶対にこのまま終わらせない』

「……今日だ」

昨日、俺はある人物と会う約束をした。

学校問題や不正を取り上げる、登録者数百万人の動画配信者。

黒田誠司。

ネットでは、彼のことを『クロダ』と呼ぶ人が多い。

企業の不正から学校内のトラブルまで、証拠をもとに取材し、問題を追及することで知られている人物だ。

最初は、俺のような高校生の話を本当に聞いてくれるのか疑っていた。

だが、返信はすぐに届いた。

『証拠があるのであれば、まずは話を聞かせてください。公開するかどうかは、その後で一緒に考えましょう』

その言葉を信じて、俺は会うことを決めた。

もちろん、怖くないわけじゃない。

動画が公開されれば、俺の顔も名前も知られるかもしれない。

学校から何か言われる可能性だってある。

それでも、もう引き返すつもりはなかった。

俺はノートとスマートフォンを鞄に入れ、家を出た。

今日、すべてが変わるかもしれない。

そう思いながら。

     ◇

待ち合わせ場所は、駅前の小さな貸し会議室だった。

扉を開けると、黒いシャツを着た男性が立ち上がった。

「神谷悠真君かな?」

「……はい」

「来てくれてありがとう。俺が黒田です」

画面越しに見たことのある顔だった。

けれど、実際に会うと、想像していたよりもずっと落ち着いた雰囲気の人だった。

「緊張してる?」

「……少し」

「そりゃそうだよな。いきなり知らない大人に相談するんだから」

黒田さんは苦笑し、向かいの椅子を勧めた。

「今日は無理に話さなくてもいい。順番に聞かせてくれればいいから」

俺は椅子に座り、鞄からノートを取り出した。

「……ありがとうございます」

「じゃあ、最初に確認させてほしい。君が一番望んでいることは何かな?」

「……え?」

「学校を辞めさせられたことへの仕返しなのか。それとも、いじめを止めたいのか。学校に謝罪してほしいのか」

黒田さんは、俺の目を見つめた。

「もちろん、全部でもいい。ただ、君自身がどうしたいのかを聞いておきたい」

俺は、しばらく考えた。

仕返しがしたい。

そう思っていないと言えば、嘘になる。

俺を殴った桐生蓮。

俺を見捨てた担任。

俺を追い出した校長。

俺を笑ったクラスメイト。

全員に、自分たちが何をしたのか思い知らせてやりたい。

でも、それだけじゃない。

「……俺みたいなやつを、もう出したくないんです」

自然と、そんな言葉が出ていた。

「俺は学校を辞めました。でも、もし俺がいなくなったあと、別の誰かがいじめられたら……そいつも、俺と同じ目に遭うかもしれない」

俺はノートを握りしめた。

「だから、なかったことにしたくないんです。俺が受けたいじめも、先生たちが何もしなかったことも」

黒田さんは、黙って聞いていた。

「……分かった」

やがて、彼は静かに頷いた。

「その気持ちは大切にしよう。ただし、ひとつ約束してほしい」

「何ですか?」

「君の安全と、証拠の確かさを最優先にすること。怒りに任せて、確認できていない情報まで公開することはしない。君を守るためにも、そこは徹底したい」

「……はい」

「それと、動画に映っている生徒全員が同じ責任を負うわけじゃない。直接いじめた人間、見ていただけの人間、止めようとした人間。それぞれ事情が違う可能性もある」

俺は頷いた。

俺が望んでいるのは、無関係な人間まで巻き込んで傷つけることじゃない。

やったことに対して、責任を取らせることだ。

「じゃあ、見せてもらえるかな」

俺はスマートフォンを取り出した。

最初の動画を再生する。

画面の中には、放課後の教室が映っていた。

机の周囲を囲む複数の生徒。

その中央で、俺が床に座り込んでいる。

『おい、神谷。何とか言えよ』

蓮の声が響いた。

『先生にチクったんだろ? だったら、もう一回チクってみろよ』

次の瞬間、鈍い音がした。

画面が大きく揺れる。

『ははっ! 弱すぎだろ、お前!』

笑い声。

俺のうめき声。

そして、蓮の声。

『学校来んなよ。誰もお前なんか必要としてねえから』

動画が終わった。

会議室が静まり返った。

黒田さんは、しばらく何も言わなかった。

「……この動画は、いつ撮影したもの?」

「二か月前です」

「ほかにもある?」

「はい。全部で十二本あります」

俺は、残りの動画も見せた。

教科書を捨てられたとき。

机に落書きをされたとき。

廊下で取り囲まれたとき。

そして、担任に相談した直後、蓮に呼び出されたとき。

どの映像にも、同じ人物が映っていた。

桐生蓮。

黒田さんの表情は、次第に険しくなっていった。

「……これは、ひどいな」

その言葉を聞いた瞬間、胸の奥が熱くなった。

たった一言。

けれど、俺にとっては大きかった。

今まで、誰も言ってくれなかった言葉だったからだ。

「君は、よく記録を残していたね」

「……残しておかないと、誰も信じてくれないと思ったので」

「そうか」

黒田さんは、ノートに目を落とした。

「それで、学校にはいつ相談した?」

「最初は二か月前です。そのあとも何度か相談しました」

「記録は残っている?」

「はい。日時と、先生に言われたことを書いてあります」

「分かった。学校側にも事実確認をしよう」

黒田さんはノートを閉じた。

「ただ、動画を公開する前に、もう少し確認したいことがある」

「……何ですか?」

「君の学校は、今回の件をどう処理したのかな?」

俺は、校長室での出来事を最初から説明した。

俺が暴力を振るったと決めつけられたこと。

証拠を見せようとしたのに、無断撮影を問題にされたこと。

そして、いじめの被害者である俺が、退学を勧められたこと。

話し終えると、黒田さんは深く息を吐いた。

「……なるほど」

彼はノートをもう一度開いた。

「君の話が事実なら、いじめだけの問題じゃない。学校の対応そのものも、確認する必要がある」

「……やっぱり、俺が悪いんでしょうか」

思わず、そんな言葉が口から漏れた。

黒田さんは、すぐに首を横に振った。

「少なくとも、いじめを受けたことを理由に、君が悪いと決めつけることはできない」

そして、はっきりと言った。

「君が受けた被害と、学校がどう対応したのか。それは別々に確認すべき問題だよ」

その言葉を聞いて、俺は俯いた。

涙が出そうだった。

けれど、今度は悲しみだけではなかった。

ようやく、自分の話を最後まで聞いてくれる人に出会えた。

それが、たまらなく嬉しかった。

     ◇

それから数日間、黒田さんのスタッフによる確認が続いた。

動画の撮影日時。

映像の編集の有無。

ノートに記録した相談日時。

学校側へ問い合わせた際の回答。

ひとつずつ、慎重に確認していった。

もちろん、学校がすべての質問に答えたわけではない。

担当者を通してほしいと言われたり、個人情報を理由に回答を断られたりもした。

それでも、俺が持っていた映像と記録には、明確なつながりがあった。

動画の中で蓮が俺を殴った日。

その翌日、俺は担任に相談していた。

相談した日の放課後。

蓮は俺を再び呼び出し、こう言っていた。

『先生に何か言ったら、もっとひどいことになるからな』

その音声も残っていた。

さらに、学校側に確認したところ、俺から相談を受けたこと自体を、担任は完全には否定しなかった。

だが、具体的な対応については、明確な説明がなかった。

そして、動画公開の前日。

黒田さんから連絡があった。

「神谷君。明日、動画を公開することになった」

「……本当に、公開するんですね」

「ああ。ただし、君の住所や家族の情報は出さない。必要以上に個人を特定する情報も伏せる。君が望む範囲を確認したうえで、証拠を公開する」

「分かりました」

「それと、公開後は学校や関係者から連絡が来る可能性がある。ひとりで対応しないで、必ず保護者や相談先に共有してほしい」

「はい」

電話を切ったあと、俺はしばらくスマートフォンを見つめていた。

明日。

明日、すべてが世の中に知られる。

俺が受けたこと。

学校がしたこと。

蓮がしてきたこと。

そして、俺が退学させられたこと。

俺は窓の外を見た。

空は、いつもと変わらない色をしていた。

けれど、俺の中では、何かが大きく変わろうとしていた。

     ◇

翌日、午後七時。

黒田誠司の公式チャンネルに、一本の動画が公開された。

タイトルは、こうだった。

『【独自取材】いじめを訴えた高校生が退学に? 学校側の対応と、被害を記録した十二本の映像』

動画が公開されてから、最初の十分間。

再生数は、まだ大きく伸びていなかった。

だが、二十分後。

コメント欄に、少しずつ書き込みが増え始めた。

『これ、本当に学校で起きたことなの?』

『いじめの映像が残ってるのに、被害者が退学ってどういうこと?』

『先生に相談した記録もあるのか……』

そして、三十分後。

動画は、急激に拡散され始めた。

切り抜き動画が投稿され、SNSでも話題になった。

特に注目を集めたのは、蓮が俺を殴りながら笑っている映像だった。

もちろん、公開にあたっては、必要な個人情報への配慮が行われていた。

それでも、映像の内容だけで、いじめの深刻さは十分に伝わった。

『笑いながら殴ってるの、普通に怖い』

『これを見て、いじめじゃないって言える人いる?』

『被害者が先生に相談してたのに、何もしてなかったの?』

コメントは、次々と増えていった。

さらに、動画の後半。

黒田さんは、学校側の対応について説明した。

「今回、私たちが確認した資料では、神谷さんは複数回にわたって担任へ相談していたことが分かっています」

画面には、個人情報を伏せた相談記録が映し出された。

「一方で、学校側は、いじめの具体的な事実確認や対応について、十分な説明をしていません」

続いて、校長室での話し合いについて、俺の証言が紹介された。

いじめを訴えたにもかかわらず、暴力を振るった側だと扱われたこと。

証拠を見せようとしたのに、別の問題を指摘されたこと。

そして、退学を勧められたこと。

最後に、黒田さんはカメラを見つめた。

「私たちは、学校側に取材を申し込み、今回の件について質問しました。しかし、現時点で、学校側からは十分な説明を得られていません」

一呼吸置いて、彼は続けた。

「いじめの事実を確認せず、被害を訴えた生徒だけが学校を去ることになったのだとすれば、それは決して軽い問題ではありません」

動画は、そこで終わった。

公開から一時間。

再生数は、十万回を超えていた。

二時間後には、さらに倍になった。

そして、夜のニュース番組が、この動画を取り上げた。

『高校生のいじめ被害を記録した動画が公開され、学校側の対応に批判が集まっています』

俺は、テレビの画面を見つめていた。

自分が受けた被害が、初めて世の中に知られた。

嬉しいのか。

怖いのか。

自分でも、よく分からなかった。

ただ、ひとつだけ確かなことがあった。

もう、なかったことにはできない。

     ◇

同じ頃。

桐生蓮は、自分の部屋でスマートフォンを眺めていた。

「……は?」

画面に映っているのは、黒田誠司の動画だった。

自分が神谷悠真を殴っている映像。

自分が笑っている声。

そして、学校側の対応への批判。

「……何だよ、これ」

蓮は慌てて動画を閉じた。

だが、すぐに別の通知が届いた。

クラスメイトからのメッセージだった。

『蓮、お前、これ本当なの?』

続いて、別の友人。

『動画のお前、完全に殴ってるじゃん』

『先生に相談されてたって話も出てるけど?』

「……ふざけんなよ」

蓮は、スマートフォンを握りしめた。

「何で今さら……」

そのとき、部屋の扉が開いた。

「蓮!」

母親が、険しい顔で入ってきた。

「あなた、ネットに何を載せられているの?」

「……別に、何でもねえよ」

「何でもなくないでしょう!」

母親はスマートフォンの画面を突きつけた。

「学校からも連絡が来ているのよ。どういうことなの?」

「知らねえって!」

「知らないで済む話じゃないでしょう!」

蓮は苛立ったように立ち上がった。

「だから、あいつが勝手に被害者ぶってるだけだって!」

「でも、映像があるじゃない!」

「編集されてんだよ!」

そう叫んだものの、蓮自身が一番よく分かっていた。

あの映像は、本物だ。

自分が殴った。

自分が笑った。

自分が、悠真に学校へ来るなと言った。

そのすべてが、残っていた。

「……くそっ!」

蓮はスマートフォンをベッドに投げた。

だが、通知は止まらなかった。

学校のグループチャット。

個人のメッセージ。

知らないアカウントからの問い合わせ。

これまで、自分を持ち上げてくれていた人間たちが、次々と距離を取り始めていた。

蓮は、震える指で父親に電話をかけた。

「……父さん。ちょっと、やばいことになった」

電話の向こうで、父親が低い声を出した。

『分かっている』

「どうすんだよ、これ!」

『今、学校とも話をしている。お前は余計なことをするな』

「でも……!」

『いいから黙っていろ!』

電話は、一方的に切られた。

蓮は呆然とした。

いつもなら、父親は自分の味方だった。

どんな問題を起こしても、最後には何とかしてくれた。

だから、今回も大丈夫だと思っていた。

だが、初めて聞いた父親の怒鳴り声は、いつもと違っていた。

蓮は、もう一度動画を開いた。

画面の中の自分は、笑っていた。

神谷悠真が床に倒れているのを見て、楽しそうに笑っていた。

「……こんなの、誰だってやるだろ」

そう呟いた。

けれど、返事をする人間は誰もいなかった。

     ◇

翌朝。

学校の正門前には、いつもより多くの保護者や報道関係者が集まっていた。

問い合わせの電話が鳴り続け、学校の公式サイトにはアクセスが集中していた。

職員室では、教師たちが慌ただしく動き回っていた。

「校長先生、保護者からの問い合わせが止まりません!」

「教育委員会からも連絡が来ています!」

「取材の申し込みが複数入っています!」

報告を聞くたび、校長の顔色が悪くなっていく。

「……落ち着きなさい」

そう言いながらも、校長自身が落ち着いていなかった。

机の上には、問い合わせの記録が積み重なっていた。

いじめの調査は行ったのか。

被害を訴えた生徒が退学を勧められたのはなぜか。

担任は、何度も相談を受けていたのではないか。

質問は、どれも核心を突いていた。

そして、答えられるものはほとんどなかった。

「……桐生君のご家庭には、連絡を?」

「はい。先ほど、保護者の方から折り返しがありました」

「何と言っていた?」

「今回の件について、学校として適切に対応してほしいと……」

校長は、目を閉じた。

桐生家は、学校にとって重要な存在だった。

その家庭との関係を壊したくなかった。

だからこそ、校長は蓮を守ろうとした。

だが、その判断が、今になって学校全体を揺るがしている。

「……神谷君の保護者には?」

「まだ、連絡がついていません」

「すぐに連絡を取りなさい!」

校長が声を荒らげた。

そのとき、職員室の扉が開いた。

「失礼します」

入ってきたのは、教育委員会の担当者だった。

「今回の件について、事実確認を行います。関連する記録と資料を提出してください」

校長の顔から、血の気が引いた。

「……分かりました」

「なお、関係者への聞き取りも行います。担任の先生にも、当時の対応について詳しく説明していただきます」

佐々木先生が、顔を強張らせた。

「……私も、ですか?」

「当然です。相談を受けていたのであれば、どのように対応したのか、説明していただく必要があります」

校長は、机の下で拳を握った。

もう、簡単に終わらせることはできない。

動画は、すでに何十万人もの人間に見られている。

学校が否定すれば、証拠を示される。

曖昧な説明をすれば、さらに追及される。

そして何より。

今回の件を、誰もが知り始めていた。

     ◇

その日の夕方。

俺のスマートフォンに、知らない番号から電話がかかってきた。

「……はい」

『神谷君でしょうか。私、桐生蓮の父です』

その声を聞いた瞬間、背筋が冷たくなった。

あの日、校長室で俺を見下していた男。

俺の証拠をまともに確認しようともせず、息子の話だけを信じていた男だ。

「……何の用ですか」

『今回の件について、少し話がしたい』

「話?」

『そうだ。君も、これ以上騒ぎが大きくなることは望んでいないだろう?』

俺は、思わず笑いそうになった。

騒ぎを大きくしたくない。

その言葉を、今さら俺に言うのか。

「……俺が望んでいるのは、真実を明らかにすることです」

『もちろん、それは理解している。だが、世の中には、話し合いで解決できることもある』

「話し合い?」

俺は、声を抑えた。

「俺が何度も助けてほしいと言ったとき、あなたの息子は何をしていましたか?」

『……』

「俺が殴られていたとき、あなたは何をしていましたか?」

『それは……』

「俺が退学を勧められたとき、あなたは何を言いましたか?」

電話の向こうが静かになった。

俺は、続けた。

「俺は、あの学校で何度も助けを求めました。でも、誰も助けてくれなかった」

喉の奥が熱くなった。

「だから、もう俺ひとりで抱え込むつもりはありません」

『神谷君、君もまだ若い。将来のことを考えるなら……』

「俺の将来を心配してくれるんですか?」

思わず、声が強くなった。

「だったら、どうして俺が学校を辞めることになったんですか!」

電話の向こうで、息を呑む音がした。

俺は、深く息を吐いた。

「……すみません。これ以上、あなたと話すことはありません」

そして、電話を切った。

手が震えていた。

怖かったのだ。

相手は大人で、俺よりもずっと多くのものを持っている。

それでも、もう引き下がるつもりはなかった。

俺はスマートフォンを置き、黒田さんに連絡した。

桐生の父親から電話があったこと。

話し合いを持ちかけられたこと。

そして、俺が断ったこと。

すべてを伝えた。

返信は、すぐに届いた。

『報告ありがとう。今後、学校や関係者から連絡があった場合は、ひとりで対応せず、保護者や相談先に共有してください。必要なら、こちらでも取材の経緯を記録しておきます』

俺は、その文章を見つめた。

少なくとも、今はもうひとりじゃない。

そう思えた。

     ◇

その夜。

黒田誠司のチャンネルに、二本目の動画が公開された。

タイトルは、短かった。

『【続報】学校側に確認したいことがあります』

動画の冒頭で、黒田さんは静かに話し始めた。

「昨日公開した動画について、非常に多くの反響をいただきました」

画面には、寄せられた意見の一部が表示される。

「私たちは、今回の件について、学校側に改めて質問を行いました」

そして、質問がひとつずつ表示された。

『神谷君から、いじめについて相談を受けていたのか』

『相談を受けた場合、どのような調査を行ったのか』

『なぜ、いじめを訴えた神谷君に退学を勧めたのか』

『桐生君側への聞き取りは、どのように行われたのか』

黒田さんは、少し間を置いた。

「現時点で、学校側からは、これらの質問に対する十分な回答を得られていません」

そして、画面に一枚の資料が映し出された。

俺が担任に相談した日時と、その内容をまとめた記録だった。

個人情報は伏せられている。

「こちらは、神谷君が当時から記録していた相談の一覧です」

黒田さんは、落ち着いた声で続けた。

「この記録が示すとおり、神谷君は問題が大きくなる前から、学校に助けを求めていたと説明しています」

画面が切り替わった。

今度は、俺が残した動画の一部だ。

『先生に何か言ったら、もっとひどいことになるからな』

蓮の声が流れる。

「そして、神谷君が相談した直後に、こうした発言があったことも確認しています」

黒田さんは、カメラを見つめた。

「私たちは、学校側がこの問題をどのように把握し、対応していたのか、引き続き確認していきます」

最後に、彼はこう言った。

「被害を訴えた生徒が学校を去り、問題の当事者がそのまま学校に残る。それが本当に適切な対応だったのか。学校には、説明する責任があるのではないでしょうか」

動画が終わった。

公開から数分後。

再び、コメント欄が動き始めた。

『相談してたのに放置されてたってこと?』

『学校は何をしてたんだよ』

『加害者を守って被害者を追い出したなら、そりゃ批判されるだろ』

そして、ひとつのコメントが急速に広まった。

『これ、いじめだけの問題じゃない。学校の対応そのものを調べる必要がある』

その言葉は、やがて多くの人間に共有されていった。

俺は、スマートフォンの画面を見つめていた。

もう、俺ひとりの声ではない。

たくさんの人が、疑問を持ち始めている。

学校は、何をしていたのか。

なぜ、被害者が退学になったのか。

そして、誰がこの問題を隠そうとしたのか。

俺は、ノートを開いた。

最後のページには、あの日、自分で書いた言葉が残っている。

『俺は、絶対にこのまま終わらせない』

その下に、新しい一文を書き加えた。

『真実が明らかになるまで、絶対に諦めない』

ペンを置く。

窓の外は、すっかり暗くなっていた。

俺を追い出した学校では、今ごろ、どんな話し合いが行われているのだろう。

蓮は、何を思っているのだろう。

校長は、まだ俺を問題児だと思っているのだろうか。

分からない。

でも、ひとつだけ確かなことがある。

あの日、校長室で俺を見下していた人間たちは、もう、俺の声を無視することができなくなった。

そして、これはまだ始まりにすぎない。

いじめの映像は公開された。

学校の対応にも疑問が向けられた。

だが、まだ明らかになっていないことがある。

なぜ、校長はあそこまで蓮をかばったのか。

なぜ、担任は俺の相談を受けながら、何もしてくれなかったのか。

そして、学校は本当に、俺を退学させる必要があったのか。


まだ終わっていない。

むしろ、ここからだ。

俺を笑った連中が。

俺を見捨てた教師が。

俺を追い出した校長が。

自分たちのしたことの重大さを知るのは。

これからなのだから。

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