第十九話 おじいちゃんと迫り来る脅威
翌朝。
王城の訓練場には、今日も木剣が風を切る音が響いていた。
ヒュン。
ヒュン。
ヒュン。
剣一郎は、誰よりも早く訓練場へ姿を現し、いつものように素振りを続けている。
異世界へ召喚された日から一日も欠かさず、一日千回。
数十年積み重ねてきた日課は、この異世界でも変わらなかった。
一方、悠真は木剣を、美咲は木杖を手に、身体強化を維持したまま足運びの訓練を行っている。
「身体強化は力任せに使うものではありません」
ガレスは二人の動きを見ながら言った。
「魔力を一定に保ち、普段どおり身体を動かすことを意識してください」
「はい!」
二人が返事をした、その時だった。
バンッ!
訓練場の扉が勢いよく開かれる。
「団長!」
一人の騎士が血相を変えて駆け込んできた。
「何事だ」
ガレスの表情が引き締まる。
「ハルト村より緊急伝令です!」
「魔物の大群が村を襲撃しています!」
訓練場に緊張が走る。
騎士は息を整えながら続けた。
「確認できただけでも、ゴブリン二百体以上、ゴブリンの亜種が数十体、ウルフ五十体以上、ブラックファング五体、さらにオーガ二体が確認されています!」
その報告に騎士たちがざわめく。
「それほどの群れだと……」
「あり得ない」
ガレスは険しい表情のまま頷いた。
「陛下へ報告する」
◇
間もなく、アルフレッド国王とエルドが訓練場へ姿を現した。
報告を聞き終えた国王は静かに口を開く。
「昨日のブラックファングと無関係ではあるまい」
エルドも地図を見つめながら頷いた。
「ここまで統率された魔物の群れは異常です」
ガレスは一礼する。
「直ちに救援へ向かいます」
国王は力強く命じた。
「第一騎士団、第二騎士団をハルト村へ派遣する」
「第三騎士団は王都全域の警備を強化」
「第四騎士団は王城と各城門の守備に当たれ」
「ブラックファングが王都近郊に現れた以上、王都を手薄にはできぬ」
「はっ!」
騎士たちは一斉に動き始めた。
悠真は思わず尋ねる。
「全部の騎士団で行かないんですか?」
ガレスが答えた。
「敵の狙いがハルト村だけとは限りません。」
「王都を守る者も必要です」
悠真は真剣な表情で頷いた。
◇
一方その頃。
王城の薬師の部屋では、レオとリナが旅支度を整えていた。
薬師は薬の包みをレオへ手渡す。
「昨夜のうちに薬は完成しました。」
「お母さんの熱にも効くはずです。」
レオは大切そうに包みを抱える。
「ありがとうございます。」
薬師は優しく微笑んだ。
「騎士の方が一緒に村まで送る予定ですよ」
「昨夜のうちに伝令も出して、お母様へ伝えてあります」
レオは安心したように息を吐いた。
「母さんも安心してくれてるかな……」
隣ではリナも嬉しそうに薬の包みを見つめていた。
その時だった。
コンコン、と慌ただしく扉が叩かれる。
「失礼します!」
一人の騎士が飛び込んできた。
その険しい表情を見た瞬間、薬師の顔色が変わる。
「どうした。」
騎士は息を切らしながら報告した。
「ハルト村が魔物の群れに襲われています!」
「これから騎士団が村の救援に向かいます。魔法薬の準備をお願いします」
レオの手から薬が滑り落ちる。
「え……」
リナの顔から笑顔が消えた。
「お母さん……」
二人は今にも飛び出そうとする。
しかし薬師が静かに肩へ手を置いた。
「落ち着きなさい」
「今、君たちが村へ戻っても危険なだけです」
レオは唇を強く噛み締める。
「でも……」
涙をこらえながら拳を握る姿を見て、薬師も胸を痛めた。
「必ず騎士団が助けに向かいます」
「今は、それを信じましょう」
レオは何も言えず、小さく頷いた。
だが、その瞳には不安が色濃く浮かんでいた。
その頃、訓練場では救援部隊の編成が急ピッチで進められていた――




