↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
16/47

第十五話 おじいちゃんと魔物②

 森の奥から、低い唸り声が聞こえてくる。


 ガレスは右手を上げ、一行をその場に止めた。


「前方、ゴブリン二体」


 先頭の騎士が小声で報告する。


 木々の隙間から覗く二つの緑色の影。


 一体は錆びた剣を持ち、もう一体は木の棍棒を握っている。


 どちらも周囲を警戒するように歩いていた。


 ガレスは悠真と美咲へ向き直る。


「今度は皆さんにも戦っていただきます」


 二人の表情が引き締まる。


「ですが、一人で倒そうとは考えないでください」


 ガレスは若い騎士を一人呼び寄せた。


「ロイド、お二人の援護を」


「はっ!」


「私と他の騎士は周囲を警戒します」


 悠真は深く息を吸う。


 訓練では何度も木剣を振った。


 模擬戦も経験した。


 だが、本物の魔物を相手にするのは初めてだ。


「身体強化を維持してください」


 ガレスの声に合わせ、悠真と美咲は魔力を巡らせる。


 脚が軽くなる。


 視界が少し鮮明になる。


 心臓の鼓動だけがやけに大きく聞こえた。


 剣一郎は少し後方に立ち、静かに三人の様子を見守っている。


 ◇


 ロイドが静かに前へ出た。


「まず一体を引きつけます」


 二人は頷いた。


 ロイドが落ち葉を踏む。


 音に気付いたゴブリンが振り向いた。


「ギャッ!」


 二体が一斉に駆け出してくる。


「一体は私が抑えます!」


 ロイドが剣を抜き、一体の前へ飛び出した。


 金属音が森へ響く。


 もう一体は悠真へ向かって走ってきた。


「来る!」


 悠真は剣を構える。


 訓練で教わった通り、武器だけでなく相手の身体全体を見る。


 肩が動く。


 腰が回る。


 棍棒が振り下ろされる。


 悠真は半歩だけ横へ動いた。


 棍棒が目の前をかすめる。


「今です!」


 ガレスの声が飛ぶ。


 悠真は身体強化を脚へ集中させ、一歩踏み込んだ。


 剣を横へ払う。


 しかし、焦りから狙いがぶれた。


 刃はゴブリンの腕を浅くかすめるだけだった。


「ギャッ!」


 傷を負ったゴブリンは怒りの声を上げ、再び襲い掛かる。


 悠真は慌てて距離を取る。


 呼吸が乱れる。


(落ち着け……)


 その時だった。


「悠真君!」


 美咲の声が響く。


 ゴブリンが悠真だけを見ている隙に、美咲は杖を前へ突き出していた。


「風よ!」


 初級風魔法。


 小さな風の塊がゴブリンの顔へぶつかる。


「ギャッ!」


 威力は弱い。


 だが、一瞬だけ動きが止まる。


「今です!」


 ロイドが叫ぶ。


 悠真は迷わなかった。


 身体強化で踏み込み、剣を振り下ろす。


 ゴブリンは受け損ね、そのまま地面へ倒れ込んだ。


 しばらく身体を震わせたあと、動かなくなる。


 悠真はその場で立ち尽くした。


「倒した……」


 初めて、自分の手で魔物を倒した。


 嬉しさではない。


 安堵と緊張が入り混じった複雑な感情だった。


 ◇


 一方、ロイドももう一体を危なげなく討ち取っていた。


 ガレスが歩み寄る。


「よくできました」


 悠真は俯いたまま言う。


「もっと上手くできると思っていました」


「その気持ちを忘れないでください」


 ガレスは静かに頷く。


「実戦では思い通りにならないことの方が多いのです」


 美咲も胸をなで下ろした。


「私の魔法……少しは役に立ちましたか?」


「十分です」


 ガレスは微笑む。


「美咲殿は敵を倒すのではなく、味方を助けることを意識してください」


 悠真も笑顔を向けた。


「風魔法のおかげで助かったよ」


 美咲はほっとしたように笑った。


 ◇


 少し離れた場所では、剣一郎が倒れたゴブリンを静かに見つめていた。


「どう思われますか、神崎殿」


 ガレスが尋ねる。


 剣一郎は悠真と美咲へ視線を向ける。


「二人とも、よう踏ん張った」


 穏やかな声だった。


「じゃが、まだ周りを見る余裕がない」


「目の前だけに気を取られると、別の敵に気付けん」


 ガレスも頷く。


「その通りです」


 悠真は祖父の言葉を胸に刻む。


 初めての実戦は終わった。


 だが、それは勇者として歩む道の、ようやく最初の一歩に過ぎなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。