第九話 おじいちゃんと異世界ごはん
夕暮れ。
一日の訓練を終えた三人は、王城の食堂で夕食を囲んでいた。
「今日は本当に疲れたな……」
椅子へ深く腰掛けた悠真が肩を回す。
「身体強化って便利だけど、基礎体力がないと意味ないって実感したよ」
美咲も苦笑する。
「魔力だけでは駄目なんですね」
「うむ」
剣一郎は頷いた。
「鍛えられた体という土台があってこその力じゃな」
やがて料理が運ばれてきた。
焼きたてのパンに、香草で味付けされた鳥肉、野菜の煮込み、温かなスープ。
悠真は嬉しそうに肉を頬張る。
「やっぱり運動した後のご飯は最高だな」
「この世界の料理も美味しくて助かったよ」
ふと、悠真が思い出したように尋ねた。
「そういえば、魔物の肉を食べたりはしないのですか?」
エルドは穏やかに頷く。
「基本的には食べません」
「え?」
「しかし魔物は、多くの部位が資源として利用されます」
エルドは指を折りながら説明した。
「魔石、牙、角、骨、皮、爪。種類によっては羽や毒袋なども貴重な素材になります」
ガレスも続ける。
「魔石は魔道具の動力源となり、牙や角は武器、皮や骨は防具や装備品へ加工されます。王国にとって重要な資源です」
「なるほど」
悠真は感心したように頷く。
「じゃあ、肉だけ使わないんですね」
「はい」
エルドの表情が少し引き締まる。
「魔物の肉には猛毒を持つものがあります。見た目だけでは判別が難しく、安全が保証できないため、食用にはしないのです」
美咲が不安そうに尋ねる。
「全部が毒なんですか?」
「いいえ」
エルドは首を横に振った。
「毒を持たない種類もおります。しかし、専門家でも見分けが難しい個体がいるため、『食べない』ことが最も安全なのです」
ガレスが静かに言葉を継ぐ。
「昔、『魔物の肉を食べれば魔力が増える』という噂が流れたことがありました」
「漫画やラノベでありそうな話だな」
悠真が苦笑する。
「その噂を信じた数人の若者が、討伐した魔物の肉を食べました」
「結果は……」
美咲が息を呑む。
「全員が亡くなりました」
食卓が静まり返る。
「食べた魔物が猛毒を持つ種類だったのです」
エルドは静かに続けた。
悠真は思わず肩をすくめた。
「物語みたいには行かないのか」
その時、剣一郎が湯飲みを置いた。
「そう言った話なら、わしにも覚えがある」
三人が剣一郎へ視線を向ける。
「若い頃、修行で山へ籠もっておった」
「食べる物が尽きれば、自分で獲るしかない」
悠真が目を丸くする。
「じいちゃん、本当に山籠りしてたんだ」
「熊や猪を仕留めて食べたこともある」
「えっ!?」
悠真と美咲が同時に声を上げた。
ガレスも少し驚いた表情を見せる。
「熊を……ですか」
「山では相手も生きるために襲ってくる」
「こちらも生きるためじゃ」
剣一郎は淡々と語る。
「命をいただく以上、無駄にはせん」
「肉は食べ、皮は敷物や防寒具にし、骨も使える物は使った」
エルドは感心したように頷いた。
「自然の恵みを余すことなく活かしておられたのですね」
「じゃが、熊や猪は野生動物じゃ」
剣一郎は静かに続ける。
「魔物とは違う」
「知らぬものを、無闇に口にしてはならん」
「なるほど……」
悠真は真剣な表情で頷いた。
「強くなりたいからって、よく調べもせずに行動しちゃ駄目なんだね」
「うむ」
剣一郎は穏やかに笑う。
「強さとは積み重ねじゃ」
「簡単に強くなれる、そんな都合の良い話はない。」
ガレスも深く頷く。
悠真は照れ笑いを浮かべた。
「最近、その言葉を何度も聞いてる気がする。」
「大事なことは何度でも言う」
剣一郎の言葉に、美咲がくすりと笑う。
食卓には穏やかな空気が流れた。
異世界へ来てまだ日は浅い。
それでも三人は少しずつ、この世界の知識を学び、自分たちの力を育て始めていた。
明日からは、さらに本格的な訓練が始まる。




