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第8話

「まず、これまで分かっていることの概要を話すぞ」


ハルは棒の代わりに、釣り竿で地図を指した。


「この半島の東側の陸地。だいたいこのあたりが、俺の縄張りだ」


ただし、指し方が雑だった。

釣り竿の先が示している範囲の外にも、赤いピンが刺さっている。


バネッサが困惑していることに、ハルも気づいたらしい。


「ああ、嬢ちゃんはこの辺り初めてだったな。ちょっと待て」


ハルは窓の遮光カーテンを閉じると、デスクの上に段ボール製の箱を置いた。


「昔、せがれが作ったんだよ」


室内の電気を消し、箱のスイッチを入れる。

箱に開けられた穴から光が伸び、壁の地図を照らした。


ハルは箱の位置をずらしながら、光の向きを調節する。


それから箱の裏側で何かを操作すると、地図の上に赤や青の線が浮かび上がった。


「魔法でも何でもねえぞ。スライドってやつだ」


この部屋に入るかもしれない非転生者への対策だろうか、とバネッサは思った。


「話を戻すぞ。で、この赤い線の内側が俺の縄張り。商圏ってやつだな」

「分かりやすいです。ありがとうございます」

「外側の青い線は、別の商人の商圏だ。互いに、そこそこ距離がある」


転生者の商人にとって、商圏とは、魔法鉱石が採れる鉱山の集合体である。

そのため、必ずしも土地として隣接しているわけではない。


むしろ、商圏同士が近すぎるとトラブルの種になる。

ある程度距離を取るのが一般的だった。


ハルは、盗掘事件の発覚から現在までの被害について説明した。


日時。

場所。

推定被害量。


地図の赤いピンと、手元の資料が、一つずつ対応していく。


説明が一通り終わると、バネッサはクロエに視線を向けた。


「クロエ社長。この地図にあるハル社長以外の商圏で、盗掘被害はあるのですか?」


「現時点では報告はありません。発覚していないだけ、という可能性はありますが。現在、各商人に現地を調べさせているところです」


「ハル社長の商圏が、狙い撃ちされているのでしょうか」


「断言はできません。ただ、ハルの弱点を狙った結果なのかもしれません」


「弱点?」


「ハルの商圏の広さに対して、契約している採取師が少なすぎるのです」


ハルは、三十歳まで漁業の仕事をしていた。


一般の、つまり非転生者の船に乗り、懸命に働いていた。

転生者として一般社会に溶け込めたという意味では、成功者の部類に入る。


その後、とある出来事をきっかけに、商人の道へ進んだ。

遅咲きの商人である。


五十歳の時、現在の商会を先代から引き継いだ。

今から十年前のことだ。


しかし、その時、大量の採取師が商館を去った。


グループ内でも、ハルの商会へ採取師を補充しようと動いた。

だが、偉大な先代から運よく商圏を引き継いだ男。

あるいは、何か裏でやっている男。


そんな悪いイメージがあったのか、なかなか採取師が定着しなかった。


抱える採取師が少なければ、商圏内の鉱山に人の目が入りにくくなる。

採取師の立ち入りが減れば、山の変化に気づくのも遅れる。


その状況を知った盗掘者に狙われた可能性がある、とクロエは指摘した。


バネッサは、クロエのグループ内の商人に詳しくない。

ハルも、今日会ったばかりの商人だ。


だから、いったん人間関係は脇に置く。


自分が採取師として、この被害現場を盗掘するなら、どうするか。


損害量。

逃走経路。

採掘速度。

運搬力。


そして、ストーリー。


一か所だけでは分からない。

だが、十二か所を並べれば、盗掘者の癖や考え方に共通項が見えてくるかもしれない。


三か月で十二か所。


同一犯だとすれば、平均して七日間隔。

かなり速い。


単独犯ではないだろう。

持ち去られている量からも、そう感じる。


バネッサは地図から顔を上げた。


「明日、現場を見せてください」


クロエとハルが、彼女を見る。


「地図だけでは分かりません。山を見たいです」

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