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第7話

バネッサが、何と返せばいいものかと固まっていると、応接室の扉が開いた。


「親父。初対面の女の子を怖がらせてどうするんだ」


入ってきたのは、ハルと似たような体格の若い男だった。

顔つきも、どことなく似ている。


手にはトレイ。

その上には、湯飲みが三つ載っていた。


「おせえぞ。何やってんだ」

「仕方ねえだろ。誰もいないから、俺がお茶淹れてきたんだよ」

「ん? えっちゃんはどうしたんだ」

「いま、役所の方に行ってるよ。朝言っただろう」


若い男は、かたかたと音を立てながら、ローテーブルにお茶を置いた。


不器用、というわけではなさそうだ。

単に、慣れていないのだろう。


「あ、こいつ、俺のせがれ。ハルアキ」


「ハルアキです」


バネッサは相手の立場が分からなかったが、とりあえず立ち上がって自己紹介する。


「アネッサです。中央地方出身の採取師五年目です。今回はよろしくお願いします」

「ああ、アネッサさん。俺は商会の所属ではないんですよ」

「はあ、そうですか」

「ハルアキくん、また大きくなったんじゃないか」


クロエが目を細めて言う。


「勘弁してくださいよ、クロエおじさん。俺、もう来年三十なんですから」


ハルアキは苦笑しながら、トレイを片手に応接室を出ていった。


「ハルアキくん、商会に戻さないのか?」

「本人が漁師をやりてえってんだ。言っても聞かねえよ。誰に似たんだか」

「そりゃ、お前だろう、ハル」


クロエは呆れたように、軽くため息をついた。


「で、アネッサの紹介なんだが」

「ああ、それはもういい。ぜひ手を貸してくれ、嬢ちゃん」

「相変わらず話が早いな」

「お前が会って、問題ないと思ったんだろ。十分じゃねえか」

「お前なあ」

「紹介状にあったプロフィールにも、全部目を通した。能力は問題ねえよ」


バネッサは、少し戸惑っていた。


自分が知っている商会とは、まるで雰囲気が違う。

地域によって空気が変わることは知っていたが、ここは少し特別なようだった。


◆ ◆ ◆


ハルの社長室へ移動した。


地図や資料を動かすのが面倒なので、ここで話そうということになったのだ。


扉の正面は、全面が窓になっていた。

前の道路を挟んだ向こうには、海が見える。


日差しが強いので、今はブラインドが半分だけ下ろされていた。


左側の壁は、何枚もの大きな地図で埋め尽くされている。

地図には、さまざまな色のピンが刺さっていた。


赤いピンが、被害に遭った山だろうか。


右側の壁は全面棚になっており、大半は本や書類のファイルで占められている。

棚の前には大きめのデスクが置かれていた。


机の上は、意外なほどきれいに片付いている。


デスクの革張りの椅子に、ハルがどかりと座った。


机と向かいの地図の間には、広い空間がある。

そこに、折り畳み椅子が数脚並べられていた。


入口の横には、畳まれた椅子が何脚も立てかけてある。


おそらく、この部屋は社長室であり、会議室でもあるのだろう。


扉の横の壁には、額縁に入った写真がいくつも飾られていた。

どれも、同じ女性の写真だった。


奥様だろうか。


「総帥をそんな椅子に座らせて、申し訳ねえなあ、クロエ」

「気にするな。始めてくれ」


ハルは椅子から立ち上がると、手帳を片手に地図の前へ向かった。


そして、説明を始めた。

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