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第63話

バネッサは、四人の老人を見る。


ムーバーは、肩を落として俯いている。

オシロは、視線を逸らして空を見ている。

ハクビは、口を一文字に引き締め、目を瞑っている。


そしてミカゲは、焚火の炎と、他の三人を悲しげに見ていた。


しばらくして、ミカゲが俯きながら語り始めた。


「レモンさん。俺たちはね、アキちゃんの山を、クロエの野郎に盗られないようにしたかったんだ」


説明下手だけど、と前置きして、ぽつぽつと話す。


きっかけは、クロエが東北商人グループの総帥となったと聞いてから。


ハルの商館は、経営的に成り立っていない。

近いうちに潰れると思った。


そうなれば、ハルの商圏内の鉱山、つまりアキの山が、グループ内で取り合いになる。

その鉱山を取り上げる商人の筆頭が、総帥となったクロエだと思った。


そうなる前に、ハルの評判を落とし、ハルアキに代替わりさせる。

そのために盗掘を行い、ハルを、まともに対処できない商人だと喧伝する。


そして、今回盗掘した資源はすべて、代替わり後のハルアキに返す。

その鉱石で、経営を再建させる。



大まかな部分は、バネッサの予想通りだった。


しかし、彼らがクロエにここまで敵意を持っていたことは意外だった。


過去に何かあったのだろうか。

クロエがアキ商会に一時世話になったと聞いたので、その時期か。


今では採取師とうまく付き合っているようだが、若い頃はまだ未熟だったのかもしれない。


まあ、今でもバネッサをからかうような言動もあり、バネッサ的には、さもありなん、とも思ったが。


しかし、ずいぶん推測と楽観的要素の多い計画だ。


クロエの総帥就任が引き金となり、彼の存在を警戒したことが、動機の一つになったのだろう。

だが、総帥となったクロエは、周囲の目があるために、表立った商人活動への介入はできない。


鉱山の巻き取りも常識の範囲内。

それも、控えめに収めるだろう。


そして何より問題なのは、ハルアキが三代目を継ぐ気がまったくないということだ。


「馬鹿だなあ、あんたらは。本当に馬鹿野郎だよ」


レモンは涙を浮かべ、身体を震わせていた。


しかし、どこかほっとしたような表情も、バネッサは見た。


納得はできない。

だが、理解はした。


そういうことなのだろう。


ハクビが、話を引き継いだ。


「念のため補足しますと、鉱石の隠し場所はここでは話しません。みなさんは知らないほうがいい。どのみち、自動的に見つかるようにしています」


何者かに隠し場所が荒らされた場合、真っ先に疑われるのは、この場の参加者たちになる。それを心配してくれたのだろう。


この人は、実務レベルで相当な力を持つ作戦担当なのだ。

この頭脳をもっと広い視野で使っていれば、盗掘という手段を選ばなかっただろう。


恐らく、リーダーのモーリという人が、この老人たちの支柱であり、正しい導き手だったのだ。



彼らとレモンとの対話で、聞きたかったことは聞けた。

つまり、この焚火の会合の目的は果たした。


「爺さんたち。私からもいいかい?」


オリヅルが手を挙げ、ハクビに告げる。


「あんたらは今後、ハル商会で色々と尋問されるだろう。ただ、あんたらは少々誤解していることがある」


オリヅルは、焚火の炎をちらりと見た。


「このまま尋問されたら、あんたらの不利になるかもしれないので、教えておいてやろうと思う」


「クロエ社長が私の雇い主だからって、庇うわけじゃないよ。ただ、クロエ商会はハル商会を買収するつもりもないし、倒産させるつもりもなかった」


「総帥業ってのは、周りの目をすごく気にするんだよ。グループ内では、他の商会の活動には介入できない。総帥となれば尚更さ。買収なんてすれば、悪辣なリーダーということで評判が落ちる」


「そして、倒産については、それは商人の力量の問題なので、総帥の評判にはそこまで傷はつかない。だけど、今回大量の採取師を支援に送り込んだのはクロエ商会だ」


オリヅルは、四人を見る。


「……盗掘騒ぎを鎮静化させようとしている人が、倒産を狙うと思うかい。放っておけば潰れるんだ。手を出さないほうが金はかからない」


「これは信じても信じなくても良いけどな。私、なぜこんなにハル商会に手を貸すのかってクロエ社長に聞いたんだ。そしたらね。恩返しだって言ってたよ。

あの人もアキ社長に育ててもらったんだってさ。採取師との付き合い方を教わったお陰でやっと商圏を手に入れて商人になれたそうだよ」


焚火の周りが、少しだけ静かになった。


ハクビの閉じていた目が、わずかに開く。

ミカゲは、焚火の向こうで小さく息を呑んだ。

ムーバーは意味が分からないというように、何度かまばたきをする。

オシロだけが、空を見上げたまま、苦々しげに口元を歪めていた。


クロエもまた、アキに育てられた者だった。

その事実が、老人たちの思い込みに、細いひびを入れたようだった。


「あんたらが思っているほど冷徹じゃない。いや、そういうとこもあるけど。あ、これは言わないほうが良かったか。忘れておくれ」


「まあ、ハル商会内部の問題だけならいい。だけど、これがクロエ総帥、つまりグループへの恨みと解釈されると、あんたらの立場が必要以上に悪くなりすぎる」


オリヅルは、ため息をついた。


「こっちも裏取りとか、面倒な仕事が増えるから勘弁してほしいんだよ」


そして、にやりと笑う。


「なので、クロエ社長の名前は出さないほうが、お互いにハッピーになるってことさ」

次回、最終話となります

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