第61話
四人の老人たちが拘束されたまま、胡坐をかいている。
大木に繋がれ、横一列に並んでいた。
目隠しと猿ぐつわ。
全員、暴れもせず静かなものだ。
パトラが、小さな焚火を起こし終えた。
レモンがバネッサに顔を向ける。
「アネッサ、いつもの魔道具も頼むよ」
バネッサは頷き、焚火の光を周囲に漏らさないよう、隠蔽を起動した。
「それと、テツ。そこのムーバーさんの首から下がっている静粛を起動してくれ。半径は十メートル程度でいい」
「わかりました」
三十年前の静粛かあ。
写真を撮りたいけど、怒られそうだからやめておこう。
魔道具オタクのテツは、震える手でムーバーの魔道具を調律する。
これで、周囲に声は漏れない。
武装したジョナス、テツ、パトラが、老人たちの後ろに立つ。
焚火を中心に、北側に老人たち。
東側にレモン。
西側にオリヅル。
南側にバネッサが、地面に座り込む。
あと少しで陽が落ちる。
夕暮れの中、焚火の炎が小さく揺れている。
相変わらず、外輪山の内側は風がない。
薄い煙は、ほぼ真上に立ち上り、空にかき消えていく。
「では、そろそろ始めるとするかい?」
視力が戻ったオリヅルが、レモンに確認する。
「ああ、頼む」
「わかった。じゃあ、爺さんたちの目隠しをまず取ってくれ」
ジョナスたちが、順番にミカゲたちの目隠しを外す。
顔色の悪いオシロという老人が、焚火を見てぎょっとしていた。
様子がおかしい。
何だろうとバネッサは思ったが、暴れる様子はない。
オリヅルに向かって頷く。
オリヅルが胡坐のまま、背筋を伸ばし、老人たちに話し始めた。
「私はクロエ商会所属のオリヅル。今回、この地の捜索業務を担当しているチームの副隊長です。今ここにいるのは、レモンさんを除いて、全員ハル社長の商館所属ではない採取師だけです」
四人の老人は、身じろぎもせずに聞いている。
「つまり、レモンさん以外は、本件とは個人的に無関係です。ハル商会へあなたたちを引き渡した後、私たちは報酬を受け取り帰ります」
オリヅルは、少し間を置いた。
「今この場にいるのは、レモンさんの警護のためだけに立ち会っているもの、とご理解ください。よろしいでしょうか」
老人たちは互いに視線を交わし、それぞれ頷いた。
オリヅルが、にやりと笑う。
「じゃあ、爺さんたち。しばらく好きに語り合いなよ」
◆ ◆ ◆
ジョナスたちが、老人四人の猿ぐつわを順番に外していく。
第一声は、意外なものだった。
オシロが焚火を見ながら、レモンに食って掛かる。
「おい、こんな見晴らしがいい場所で焚火とか、どうかしているのか?」
「大丈夫だ、オシロ。多分、隠蔽を使ってる。光は外に漏れない」
「え。隠蔽って、そんな使い方できたのかよ、ミカゲ」
「くくく。オシロ、魔道具の情報、古いんだ、ぜ。このくらい、前から常識、だ」
「マジかよ、ムーバー。へえ、知らなかったぜ。……でもいいな、これ。焚火し放題じゃねえか」
ムーバーが、焚火を見ながらぽつりと言う。
「……まあ、いい、じゃねえ、か」
誰も反応しない。
ムーバーは炎を見たまま続けた。
「久しぶりに、焚火、囲めた、な」
優しい目で、四人が炎を眺める。
まるで緊張感がない。
拘束されているとは思えない普通のテンションだ。
覚悟を決めているのだと、バネッサは暗い気持ちになる。
レモンは苦笑しながら、四人の会話を眺めている。
バネッサは、その横顔に色々な思いがあるのだろうと感じていた。
「それよりなあ、なんでお前ら南口に来たんだよ。東に行けって言っただろう」
「ふふふ。ミカゲ。それはあなたの嘘が下手すぎたからに決まっています」
「は? どういう意味だ、ハクビ」
「先に行け。南を確認してから後で追う。……とか。まあ、最初は言われた通りに移動しようとしましたがね」
オシロが大きな息を吐く。
「ミカゲ。お前、石の手紙の隠し方が雑なんだよ」
「雑ってなんだよ」
「片付け屋のオシロ様の目には、ここに何か隠していますよ、って風にしか見えなかったってことだ」
「仕方ねえだろう。こっちは左手が利かねえんだ」
ハクビが、流れを引き取るようにつぶやく。
「『南で待つ』。その石の手紙を見た時、ああ、終わったなと思いました」
「……」
「石の手紙は、アキちゃんの商会でも最初期しか使っていません。この手紙を置いた人物は当然、東口の存在を知っている最初期の誰かです。だから『出口で待つ』ではなく、あえて『南で待つ』と書いた」
「……」
「東口も塞がれているなら、私たちは袋のネズミだと悟りました。戦闘できない私たちにできることは、あなたを救うために投降することだけだと観念したのですよ」
「……馬鹿かよ、お前ら」
「思慮が足りないのは、あなたも同じですよ、ミカゲ。私たちに東口へ向かえと言った時、そこが固められているって考えていなかったでしょう」
「うっ」
「二手先を考えろって、いつもモーリに怒られていたのに」
「……」
「まあ、事前に商館を出入りしている採取師を観察して、古い世代はいないと判断して作戦を立案した私の不手際です。ここでレモンさんが出てくるとは予想していなかった」
「……ま、まあ。俺がそういう風にハクビに指示したんだ。裏ボスの俺の責任だ」
オシロの嘘は、この場の全員が見抜いていた。
ミカゲが、そういうことかとため息をつく。
会話が止まり、焚火の周りが静かになった。
薪が、静かに燃えている。
陽はすっかり落ちたようだ。
雲の間に星が見える。
「穴倉でいつも焚火していたけどよ」
ミカゲが、ぽつりとつぶやいた。
「やっぱり、外でやる焚火の方がいいな」




