第60話
「責任なら、俺が取るよ」
木の陰から、レモンがパトラに支えられながら歩いてきた。
「ハコネさん。あんた、さっきうまいこと言ったよ。これは老骨の茶飲み話だ」
「だから、レモンさん――」
「尋問とかするつもりはねえ。ただ、この茶飲み話に、あんたの社長が望んでいる真実が出てくるかもしれねえ」
「レモンさん。あなたは今回の作戦の初めに、ルート変更で私たちが弛んでいるとテストしました」
「……ああ」
「そのあなたが、ルールを緩めようというのですか」
「それは違うよ、ハコネさん」
「何が違うんですか」
「あんたにとって、採取師って何だね」
「質問の意図が分かりません」
「言い方を変えよう。あんた、お師匠さんに、どのような採取師になれと言われた?」
「『五感を使い、頭で考え、足で歩み、手を動かす』ものが良い採取師だと習いました」
「どれも大事だな。いい師匠さんだ。ただ、アキちゃんの商会では、頭にもう一言を加えるんだ」
「……」
「『仲間とともに』ってな。東北の採取師は、チームで動くんだ」
レモンは、パトラの肩から手を離した。
両腕を下げ、こぶしを握りしめる。
ハコネは目を閉じ、腕組みをしている。
その表情からは、何も読み取れない。
「あの先輩たちには、もう何も残っていない」
レモンは、静かに言った。
「アキちゃんも、リーダーのモーリも。山も、だ。心も身体も、ぼろぼろだ」
「……」
「商会に連行されたら、個別に監禁、尋問されて、……最後は別々に処刑されるかもしれない。盗掘に手を出したんだ。当然だ」
レモンは、一度だけ息を吸った。
「……当然なんだが、俺は見ていられない」
「……」
「あんたにとっては、連中はもう採取師ではないかもしれない。でも、俺はそれが本当か見極めたい」
レモンの声が、少しだけ震えた。
「大事な仲間だったんだよ」
「……」
「後生だ、ハコネさん。老い先短い老いぼれ同士、最後の機会なんだ。ほんの少しだけでいい。時間をくれないか」
ハコネは目を開け、レモンを正面から見た。
「やはり無理です。お気持ちは分かりますが」
「……そうか。すまなかった。時間を取らせたな」
「本当です。私はこれでも結構忙しいのです」
ハコネは、しょんぼりしているパトラに声をかける。
「パトラ。足の具合はどうだ」
「は、はい。何とか、あ、あ、歩ける状態です。は、走れません」
「では、オリヅルに伝えてくれ。私はこれから、ゲンさんと南口外側の偵察に行く」
「……え」
「向かってくる増援部隊を待ち伏せしている賊が、残っているかもしれない」
ハコネは、何でもないことのように言った。
「そうだな。二時間くらいで戻ると伝えてくれ」
レモンは、深く頭を下げた。
ハコネはそれを見ないふりをして、ゲンの方へ歩き出した。




