第58話
「え、……いえ。あ、……若白髪でして。……黒に染めていますが」
ミカゲはしばらくバネッサを見ていたが、急に興味がなくなったような顔になる。
「……そうか。いや、大した意味はねえよ。忘れてくれ」
「……私も聞きたいことがあります」
「なんだ」
「アキさんって、どういう人だったんですか」
ミカゲが、虚を突かれたような顔でバネッサを見る。
「みんな、アキさんが大好きだったって聞いたので。同じ女性として、参考にしたくて」
「そうか。でも、あまり参考にはならねえと思うぞ」
「えー、そうなんですか。女性として格が違う?」
「違う違う。あんな滅茶苦茶な女、他では見たことねえからだよ」
ミカゲは、アキと仲間たちのエピソードを語った。
クールビューティの笑い上戸。
頭が良いのに、やることが突飛。
仲間たちは、年中振り回されてばかり。
面白エピソードのオンパレードだった。
バネッサは腹を抱えて笑う。
まるで酒場で先輩が後輩に語るように、ミカゲは語った。
話題の舞台は、ほとんど山が背景だった。
ミカゲの思い出は、アキと山でできている。
「素朴な疑問なのですが、アキさんはどうして商館経営と海産物の仕事をしていたんですかね」
「それはよく分からねえな。転生前に海の街にいたって言ってたから、その影響じゃないかと思うが」
ミカゲから、笑みが消える。
「アキちゃんさ。ときたま、海に向かって泣いていたよ」
「……」
「転生前の世界に、赤ん坊を置いてきてしまったと。……俺たち、ガサツな採取師は見ているしかできなかった」
ミカゲは、少しだけ目を伏せた。
「不器用ってのも、罪だよな」
「……ええ」
「そんなある日、泣いているアキちゃんを慰めて、仲良くなって、結婚までしたのが互助会のハルの野郎だ」
「……」
「うらやましいとかじゃねえ」
ミカゲは、静かに言った。
「自分らの不甲斐なさが情けなかった。今だから思うよ。俺たちはハルに八つ当たりしていたんだ」
◆ ◆ ◆
バネッサは、何と返せばよいか分からなかった。
「すまねえな。話が変な方に曲がっちまった」
「……いえ」
「しかし、あんたは聞き上手だな。柄にもなく、昔話をこんなに話したよ」
「お酒も飲んでいないのに」
「まったくだ。……あんたは面白いやつだな。昔はたくさんいたよ。あんたみたいな採取師」
「まあ、人を古臭いみたいに言わないでください」
バネッサは立ち上がる。
そろそろハコネとゲン、そしてテツも戻ってくる頃だろう。
パトラがレモンを支えながら、こちらへやってくるのが見える。
「ミカゲさん、また後ほど」
「ああ」
ハンドサインでパトラに交代と伝え、バネッサはオリヅルが休んでいる仮拠点へ向かった。
◆ ◆ ◆
ハコネとテツが、オリヅルの座る木の根元で話をしていた。
あと三十分ほどで、三人組が森から出てくるようだ。
テツが三人組の人相を伝える。
全員、老人。
一人は、中肉中背の眼鏡をかけた非戦闘職。
もう一人は、筋肉質で小柄な男。大きなつるはしを持っている。
残る一人の顔色の悪い男は、筋肉質な男の肩を借りて歩いている。
全員、採掘道具をベルトに下げている。
ナイフ以外の武装は見られないとのことだった。
ペースが遅いのは顔色が悪い男の足腰が悪いためのようだった。
「彼らは、投降するつもりでしょうか」
「分からない。これまで見事な逃走劇をやらかした連中だ。油断するな、テツ」
「はあ。しかし、連中、……緊張感とかが見えなくて」
ハル商会のゲンは、離れたところで装備の再チェックをしている。
会議室で見せていた威勢のよさはない。
話しかける雰囲気でもなく、バネッサは遠目で見ていた。
◆ ◆ ◆
三十分後。
バネッサは、ミカゲを座らせた木の横に立っていた。
ハコネ、ゲン、テツ、パトラは周辺に潜伏している。
ミカゲには悪いが、目隠しと猿ぐつわをさせてもらった。
彼には、森から近づいてくる三人の情報は伏せている。
単に、バネッサたちが増援を待っている最中だと思っているはずだ。
さあ、どう出てくるか。
バネッサは唾をのみ、森の入口を注視していた。
そして、森の入口から三人の老人が姿を現した。




