第57話
花火を確認したテツは、戦闘が行われている現場に急行した。
そして、パトラとアネッサが黒いジャージ姿の男と戦っている場所に到着しようとした、その瞬間。
謎の光る槍が、アネッサの右手から出現した。
その槍が、男の側頭部を強打するのを見てしまった。
直後、パトラのストレートで男がノックダウンする。
テツは安堵した。
しかし、先ほどからアネッサから目が離せない。
「テツさん。その男はミカゲ。盗掘犯です。拘束を手伝ってください」
「……はい」
「パトラ、目は大丈夫? ……時間が経てば元に戻ります。安心して」
「……あの、アネッサさん。さっきの槍って」
「テツさん、私は忙しいのです。あ、パトラ、オリヅルさんの補助をしてあげて。テツさん、これから三人の盗掘犯が近づいてきます。警戒をお願いします」
「……あの、あれって……どんな魔道具なんですか」
「テツさん、事態はまだ決着していません。今、まともに戦えるのはあなただけなんですよ」
バネッサは、きっぱりと言った。
「槍のことなんて金輪際忘れてください! 永久に!!」
◆ ◆ ◆
「……という状況です、オリヅルさん。私はミカゲさんを人質にして、これから向かってくる三名と交渉しようと思います。いかがでしょうか」
目に包帯を巻いたオリヅルは、了承した。
バネッサの正体を知っているのは、このチームでは自分一人だ。
南口チームで一番の経験値を持つバネッサなら、うまく交渉の場を作れる。
オリヅルはそう信じた。
レモンたちは違和感を持つだろう。
だが、緊急事態なので仕方ない。
東口の様子は分からないが、ハコネなら最良の判断をするだろう。
しかし、頭の隅では、
私も光の槍、見たかったなあ。
と悔しがっていた。
レモンの足の傷は深かったが、彼は自分で縫合を済ませていた。
出血のために顔色は悪い。
だが、意識は正常だった。
バネッサに礼を言い、よくやったなと褒めた。
しかし、光の槍については何も言わなかった。
ミカゲの方を見て、暗い表情になる。
そのレモンの様子が、痛々しかった。
テツはミカゲを縛りながら、バネッサの右手が気になるのか、ちらちら見ている。
そのたびに、パトラによそ見をするなと怒られていた。
◆ ◆ ◆
バネッサはセンサーを確認する。
森の中の三人は、非常にゆっくりしたペースでこちらに近づいてきている。
外輪山の内側は、比較的平坦な地形のはずだ。
何か意図があるのだろうか。
このペースだと、到着は二時間後くらいだろう。
花火を見たハコネとゲンが、南口に駆けつけた。
東口にはムギだけを置いてきたとのことだ。
ムギ一人で大丈夫かと思ったが、大量のトラップを仕掛けたそうで、防衛だけなら何とでもなるらしい。
増援は、早くても今晩に到着する。
それまでは、近づいてくる三人については今の人員で対応するしかない。
閃光にやられたパトラの片目は、だいぶ回復したようだ。
レモンが警告した際、彼の方へ視線を移動させようとしたため、光を直視せずに済んだらしい。
ただ、足の傷は思っていたよりも深く、まともには歩けない。
よくもまあ、そんな怪我でミカゲを倒したものだ。
オリヅルは閃光を直視してしまったため、まだ戦闘ができるほどには視力が回復していない。
無傷なのは、ハコネ、ゲン、テツ。
そして、アネッサことバネッサの四名になる。
ハコネは当初、交渉には自分が当たると言った。
しかし、オリヅルの進言を受け、アネッサに任せることを許可した。
クロエ商会とハル商会の人間より、第三者の方が冷静な判断ができるかもしれない。
また、直前の戦闘の内容を聞いたこと。
そして、あのクロエが連れてきた採取師であるということ。
それらを踏まえ、ハコネはアネッサからただならぬ気配を感じていた。
ミカゲは、ハコネたちが到着する前には覚醒していた。
だが、一切口を開こうとしない。
顔を知っているはずのゲンの姿を見ても、眉一つ動かさず、そっぽを向いている。
ハコネはこの南口ポイントが初めてだった。
そのため、ゲンの案内で地形の確認に出ていくことにした。
その前に、テツにはこちらに向かってきている三名の様子を見てくるよう命じる。
パトラには、オリヅルとレモンの看病を命じた。
ミカゲは、先ほど戦闘があった場所の近くに座らせた。
外輪山と森との境目。
少し開けた土地に生えている木の横だ。
縛ったロープの先は、その木に結ばれている。
バネッサは見張り役として、ミカゲのそばに立っていた。
「なあ、あんた。名前は何て言うんだ」
突然、ミカゲがバネッサに話しかける。
「……アネッサです」
「クロエのとこの採取師か?」
「え、違います。違う地方から手伝いに来ました」
「どこからだ?」
「中央の方です。東北とは全然違うところですよ」
「ふうん」
「……なんでですか?」
「採取師になって何年だ」
「え、あ、えー……五年ですね。見習い期間を含めると、もうちょっと」
「……それにしちゃ、いいバネしてんな」
「はあ。恐縮です」
「師匠は誰だい?」
「ふふふ。さっきまでだんまりだったのに、急におしゃべりさんですね」
「退屈になってきたんだよ。で?」
「えっと、師匠はもう亡くなったのですが、……有名な人ではないです」
「……そうか。残念だったな」
「そう、ですね」
「どんな師匠だったんだ」
「えっと、大柄で、雑で、ガサツな人でした」
「まあ、採取師はたいてい雑でガサツだけどな」
「ふふふ。東北は結構、その傾向が強いようですね」
「……なあ、変なこと聞くけどよ」
「はい」
「あんた、その髪の毛、染めてねえか? 本当は……金髪とか、さ」




