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第51話

ミカゲは腰を浮かせ、テーブルに両手をついた。


「ハ、ハクビ。あんた、何てことを言い出すんだ」


ミカゲは、ハクビの気がふれたのかと思った。


若い頃の、まっすぐな目。

作戦行動中の、飄々とした茶目っ気のある声。

盗掘者を執念深く追い詰めた時の、冷酷な目。


とても、同じ人物とは思えない。


「冗談じゃねえ。盗掘なんてまっぴらだ。俺が俺じゃなくなっちまう」


ハクビは、悲しい笑みでミカゲを見た。


「ミカゲ。君はそう言うと思ってた。それでいいと思うよ。ごめんな」


皆、押し黙ってしまう。


店員が、ビールの瓶を回収に入ってきた。

ビールの追加はありますかと聞かれ、オシロが三本追加した。



「ハクビ。俺は、やるよ。手伝う、ど」


ムーバーが突然、ハクビに言った。


「アキちゃんのために、生きてきた。……そのあとも、好き勝手に、生きた。でも、どうにも、寂しい、んだ」

「……ムーバー」

「ハクビが、一所懸命に、考えた、ことだろ。なら、それでいい。俺は頭が悪いん、だ」


「俺もやる、ハクビ」


オシロが、手酌でビールのおかわりを注ぎながら言う。


「もう、若い頃のようには動けねえけど、なんか手伝わせてくれ」


ミカゲは、声が出せなかった。


「ミカゲ。お前の言い分はもっともだ」


オシロは、コップを置いた。


「これは俺の、俺だけの意地だ。ハクビに乗っかる」

「オシロ、あんた」

「今日は、顔が見られて良かったよ。来てくれてありがとうな、ミカゲ」


駄目だ。

こいつら三人とも、自分たちを追い詰めている。


どうやったら止められる。


こんな時に、モーリはいない。

彼がいたら、絶対に止めている。


これは破滅への道だ。



ハクビが、書類カバンから封筒を出した。


「ミカゲ。君はまだ採取師かい?」


「ああ。まだ現役のつもりだが」

「盗掘ではなく、別の仕事を依頼したい」

「なんだ……よ」

「企業調査。ハル商会の現在の動向を探ってほしい」


ハクビは、封筒を卓に置いた。


「まっとうな仕事だ。前金で用意している。ぜひ頼みたい」


◆ ◆ ◆


ミカゲは、重い気持ちで九州へ戻った。


ハクビからの依頼は請けた。


調査結果次第で、あの三人に、盗掘など無理だと突きつけたい。

そんな思いもあった。


だが、自分たちが去った後の商会の様子に、興味がないわけでもなかった。


八年間世話になった商会に挨拶をし、宿舎を引き払った。


ハクビには二か月もらった。

あの広大な商圏全域を、一人で確認することはできない。


そのため、商会周辺の調査と、比較的アクセスが容易な鉱山の調査に絞ることにした。


これは、オシロがリクエストしてきた条件でもある。

彼の足腰が、ぼろぼろだったためだ。



調査を開始して、ミカゲはすぐに気づいた。

ルート設計が、自分の時代のものから更新されていない。


便利な新しい道路が真横にできているのに、使っていない。

背の高い建物ができたのに、回避していない。


今の頭目は何をやっているんだ。


怒りさえ湧いてきた。


採掘が終わった鉱山も調べてみた。


手の抜き方が半端ではない。

優秀な鉱山であるため、そこそこの成果にはなっただろう。

掘削と輸送の手間を考えたのかもしれない。


だが、現在活動している採取師の質はひどいものだと、ミカゲは感じた。


◆ ◆ ◆


「手書きの報告書は何年ぶりですかね」


ハクビは微笑みながら、ミカゲのレポートに目を落とす。


二か月後。

関西の同じ店に、四人が集まった。


ムーバーとオシロも、コピーされた報告書を読んでいる。


「すまないな。ワープロとか使えないんだ」

「ワープロとか。最近はパソコンというんですよ、ミカゲ」

「え、PCじゃ、ない、のかよ」

「じじいたち、黙って読めよ。うるせえな」


「相当ひどいことになっていますね」

「十年近くルート更新していないとは、頭使ってないのかよ」

「手、抜いてやがって。山が、もったいない、ぞ」

「まあ、これなら、私ら老人部隊でも何とかなりそうですね」


「俺、会社、辞めてくる。いつやる?」

「保管場所と宿の手配もしなくちゃな」


「ちょっと待て、ハクビ。やっぱり無茶だ」


ミカゲは、必死に止めようとする。


しかし、この三人は本気だ。

死んでもいいという覚悟があるのだろう。


老い先短い年齢。

彼らは、焦っている。


駄目だ。

盗掘は駄目だ。


しかし、彼らは止まらないだろう。


ミカゲは困惑する。


周辺警戒担当がいないのだ。

この盗掘は失敗する。


目の前の昔の仲間が破滅する。


見殺しにできない。


「……ハクビ。俺もやるよ」


ミカゲは、絞り出すように言った。


「仲間に入れてくれ」

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