表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
47/49

第47話

アキちゃんが死んだ。


アキちゃんは2年前に入院して、その後退院したが、入退院を繰り返していた。

ミカゲは、アキちゃんは大丈夫、アキちゃんは死なないと自分に言い聞かせていた。

深く考えると、恐怖で手足が動かなくなる。


この商会を立ち上げる前から、アキと共にいる採取師は0期生と呼ばれ、その一人であるミカゲは、ルート開発を担当していた。商圏内の各地の様子を、自分の目で確認するために、長期に渡り商館を留守にしがちだった。


3週間の調査業務から戻ってきたら、数日前にアキが死んだと伝えられたのだ。


社長室に作られた祭壇の上に、白い布で覆われた箱が置いてあった。


遺影はいつも通りの仏頂面。線香の匂い。隣で泣いている総務のえっちゃん。

誰でも良い、何かの冗談だと言って欲しい。怒らないからドッキリでしたと、おどけて欲しい。


商館内は電話の音が何本も響き、廊下をバタバタ小走りする音が右往左往していた。


リーダーのモーリが、茫然と立ち尽くすミカゲの肩に手をのせる。


「ミカゲ、調査から戻ったばかりだろ。今日は戻って休め」

「俺、アキちゃんの……死に目に間に合わなかった」

「仕方ない。アキちゃんも、責めたりしないよ」

「怒ってくれよ。のろまだって叱ってくれよ、なあ、モーリ」


モーリは、小さな声で「帰って休め」と言った。


調査に同行したムーバーが、背中に背負った大つるはしを震わせる。


「リーダー、……アキちゃんは、苦しんだ、だか?」

「いや、最後は薬で苦しまないように逝ったらしい」

「そうか、それは、……良かった、だ」


ムーバーは無理に笑顔を作っているが、両目から涙を流していた。


「……モーリ。ハクビとオシロはどこだ」

「二人はハルの付き添いで、東北商人グループの総帥の所へ行っている」

「総帥?」

「この商会の、後継の件で呼ばれたんだ」

「後継って……ハルアキ坊か?」

「まだ、坊ちゃんはまだ高校も出たてだ。……恐らく、ハルになる」

「じ、冗談じゃねえぞ。なんであんな奴に」


「……仕方ないだろう。アキちゃんの遺言でもあるんだ」


穏やかな声で自分を諭すモーリの目の暗さを見て、ミカゲはそれ以上言葉を続けられなくなった。


事務室で、帰還手続きを終えたレモンが戻ってきた。


「ミカゲ先輩、ムーバー先輩。外の空気を吸いに行きましょう」


1期生のレモン。かつては暴れ熊と呼ばれたこの男ですら、目が真っ赤だ。


商館を出る。吐く息が白い。

ミカゲは息を深く吸い、肺に冷たい空気を送る


ムーバーが、少し震えた声で二人に言った。


「に、肉食べる、だ。仕事帰りは、肉。アキちゃんと決め、たんだ」


「ですね、ムーバー先輩。山から戻ったら、肉、ですよね」


レモンがムーバーの肩に手を置きながら、サングラスをかけた。


「いつもの店、行きましょう、先輩方」


レモンはミカゲより5歳年上だが、ミカゲ達を常に先輩として話をする。

律儀な男だが、一旦切れると手が付けられないほどの喧嘩をする。ついたあだ名が暴れ熊。


かくいうミカゲも同じで、一度二人で隣の商圏から、ちょっかいをかけてきた採取師10名をボコボコにして、アキとモーリに泣くほど怒られた。

アキが先方の商館にて「クールビューティの大号泣土下座」をぶちかまし、丸く収まったのはしばらく界隈のニュースになった。


◆ ◆ ◆


いつもの居酒屋には、アキの商会の採取師が多く居た。ミカゲ達に黙礼をするも、皆、沈んだ面持ちで酒をすすっている。

採取師はフリーランス。商会の社員でも何でもない。しかし、アキが作った商会の雰囲気が大好きだった連中ばかりだ。


0期生が目立つと、若い連中も飲みづらいだろうという事で、店主にお願いして奥の座敷を開けてもらった。

レモンは同席を遠慮したが、強引に連れ込んだ。


卓に届いた焼き鳥を頬張る。


今後、仲間たちははどうするのだろう。そして、俺もどうすればいいんだろう。


ミカゲは、味のしない肉を噛み続ける。


レモンの話だと、アキの親友であった彼の女房は、頻繁にお見舞いに行っていた。しかし、正直先は長くないだろうと、夫であるレモンに話していたらしい。


このためレモンは、アキの死に対して、ある程度は覚悟していたようだ。


「……とはいえ。実際逝かれてしまうと、辛いです」


「……」


「アキちゃんには恩しかない。何のお返しもできなかった」


レモンはジョッキを干しながら、吐き出すように言った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ