↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
46/65

第46話

長身。


肩幅が広い。

骨格から見て、男性だと思う。


足の運びから、戦闘術の心得があると見る。


左手をポケットに入れ、右腕はゆらりと垂らしている。

印象としては、ナイフ使いか。


黒のジャージ上下。

荷物は背負っていない。

靴は、古い型のトレッキングシューズ。

野球帽に、サングラスとマスク。


顔は見えない。


迷いなく、こちら側に近づいてきている。


センサーを確認。

反応なし。


つまり、認識阻害装置を持っている。

しかし、隠れようともしていない。


意図が分からない。


一番、出現してほしくない方向から、この男は出てきた。


男が出てきた方角からは死角が狭く、バネッサは動けない。


オリヅルたちに知らせたい。

だが、パトラは気づいただろうか。

彼女に動いてもらうしかない。


男は、バネッサが隠れている岩の横を、街中を歩くようにゆるゆると通り過ぎていった。


足音を消す気もないようだ。

土を踏む音を残して、バネッサから遠ざかる。


パトラがいる木の方面。

つまり、外輪山の南口に向かっている。


どうするか。

近寄って接触し、戦闘音でオリヅルたちを起こすか。


その時、ジャージ男が不意に立ち止まった。


「来たぞー。石の手紙、見たぜ。誰だか知らないが、出てこいよ」


◆ ◆ ◆


パトラは仰天した。


アネッサが潜む岩の近くを、不審なジャージ姿の男が歩いている。


木を滑り降り、オリヅルが寝ている場所へ移動しようと視線を右に向けた。

その瞬間、目の前にレモンが立っていた。


ここを離れろ。


レモンがハンドサインを出し、パトラの横を通り過ぎる。


「来たぞー。石の手紙、見たぜ。誰だか知らないが、出てこいよ」


男の声が聞こえた。

ハスキーで、落ち着いた声だ。


パトラは思わず振り向き、レモンを見る。

レモンはにこりと笑い、サングラスをかけた。


誰も出てくるな。


ハンドサインを出し、しっしっと犬を遠ざけるようなジェスチャーをする。


パトラは嫌な予感がした。

オリヅルを呼んでこないと駄目だ。


◆ ◆ ◆


「ご無沙汰してます、ミカゲ先輩」


パトラが登っているはずの木の陰から、レモンが姿を現した。


作戦行動中とは思えない、レモンの声の大きさ。

そして、静かな響き。


それを聞いて、バネッサは嫌な予感が的中したと、下唇を噛んだ。


やはり、盗掘者はレモンさんの先輩だった。

そして、レモンさんは見事、相手と接触することに成功した。

昨夜の不審な動きは、このためだったのだろう。


パトラの動きが見えない。

オリヅルを迎えに行っただろうか。


レモンと、ミカゲと呼ばれたジャージ男。


二人がどう動くのか分からない。


バネッサは動けず、岩陰から見守ることしかできなかった。


「……誰かと思ったら、レモンさんだったのか」

「はい。わざわざすみません」

「相変わらずランニングシャツなんだ。そのサングラスも」

「トレードマークですから」

「三つ子ちゃん、元気?」

「全員、片付きましたよ。今では孫も五人います」

「五人もかよ。そりゃ良かったなあ」


ミカゲは、少しだけ息を吐いた。


「……しかし驚いたよ。石の手紙。久々に見た」


「へへ。俺も何十年ぶりかで置きましたよ」

「……俺たちだって分かってたのかい?」

「隠そうともしてなかったでしょう」

「それなりに隠してたよ。だから何か月も掘りまくってた」

「……ミカゲ先輩」

「どうした、レモンさん」


「なんで、あんたみたいな人が、盗掘なんてやっちまったんですか」


ミカゲと呼ばれた男は、一瞬、身体を固くしたようだった。


「レモンさん。あんた、いくつになったっけ。俺の五つ上だったか」


ミカゲは、少しだけ首を傾ける。


「……じゃあ、もう七十か。まだ、あそこにいるのかい?」

「……ミカゲ先輩」

「まだ現役とは知らなかったよ」

「……引退してますよ、とっくに」


レモンは、静かに言った。


「あんたらが悪ふざけするから、後輩が助けろって泣きついてきたんですよ」

「……」

「いい年して、何やってるんですか」


「レモンさん、ふざけているつもりはねえよ。これでも大まじめだ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。