第45話
先ほどの夢のダメージが大きい。
心の波が荒れている。
数回、深呼吸する。
槍を持っているイメージ。
落ち着かなければ。
月の高さから考えると、夜中の三時頃だろうか。
パトラがレモンと交代する予定時間の直後くらいだ。
まずは、オリヅルさんに報告だ。
実は、バネッサはオリヅルさんと交代する時間だった。
何十年ぶりだろう。
寝坊なんて。
昨日のクライミングが効いたのか。
ぷりぷり怒っているオリヅルをハンドサインで呼び出し、緊急事態だと報告する。
パトラがテツを起こし、全員で話し合う。
オリヅルは、色々な意味でショックを受けていた。
レモンがいなくなった事態に気づけなかった、自分の迂闊さを悔いているようだった。
木の周辺には、特に争った痕跡もない。
レモンの意思で、ここを去ったものと思われる。
「盗掘犯が知り合いと思い込んで、説得に行ったのでしょうか」
「あの人が、この土壇場で逃げ出すとかは考えにくいね」
「き、きっと、近づいて、な、なにか調べようと、し、してるのかも」
各自、考えを述べる。
だが、どれもありそうで、どれもあり得ない気がした。
増援が来る前に、何らかの決着をつけようとしているのだろうか。
「さ、探しに行かないと、お、思います。こ、鉱山に近づいて、し、調べるのは?」
「パトラ、それは駄目だ。今回、私たちはこの南口を固めないといけない。レモンさんの捜索に人手は出せないよ」
「そ、それは、そうか、も、しれないけど」
「私が、探してきましょうか。オリヅルさん」
「アネッサ。あんたには花火役がある。あんたは私の近くにいてくれないと、ハコネと連携が取れない」
そうだった。
こんなことなら、花火に立候補しなければよかったのかも。
「アネッサ。これから予定通り私と交代して、その岩陰付近で監視をお願いするよ。交代時間までにレモンさんが戻らない場合、そのまま東口のハコネにこの件を伝えてきてくれ」
「……分かりました、オリヅルさん」
「パトラは木の上だ」
「は、はい」
「テツ。私らは寝るよ。今日が正念場なんだ。今晩、増援が来る。それまで持ちこたえるよ」
テツが頷き、オリヅルと寝床に移動しようとした。
その瞬間。
「ああ、すまねえな。ちょっと腹を壊したみたいでな」
全員が、声のした方向を見る。
そこに、レモンが立っていた。
「な、ど、どこに行ってたんですか」
オリヅルが、レモンに掴みかからんばかりに詰め寄る。
「あっちの草むらだよ。うんうんとうなってた」
「冗談はやめてください」
「冗談なんかじゃない。老人はいろいろ緩いんだ。許してくれ」
嘘だ。
バネッサは黙ったまま、レモンを見つめた。
「オリヅルさん。声をかけずに現場を離れたのはすまん。しかし、俺はもう眠い。お叱りは明日にしてくれ」
じゃあまた明日、とレモンはねぐらに向かって歩いていく。
四人はぽかんと見送るが、どうしようもない。
オリヅルはぷりぷり怒りながら、テツはあくびをしながら、その場を去った。
バネッサは、安堵していいのか分からない顔をしているパトラに言う。
「じゃあ、監視を続けますか」
「そ、そ、そうだね」
何だったんだろう。
何をしてきたんだろう。
バネッサは、岩陰にある草むらの中で考える。
敵情視察?
イメージに合わなくもない。
だが、レモンが黙って行くだろうか。
あれほどチームワークについて喧嘩を売っておいて、自らそれを破るのは筋が通らない気がする。
盗掘犯がレモンさんの先輩だと、彼が確信していたとして。
盗掘をやめるよう説得に行った。
あり得る話だ。
しかし、この時間に誰にも言わずに出ていくのは、同じく違和感がある。
盗掘者たちに逃げるよう、知らせに行った?
だが、レモンは社長室で、彼らが本当に盗掘をやっているのなら裁きたいと言っていた。
嘘だとは思いたくない。
けれど、何か考えが変わったのか。
草むらの中で、色々考える。
だが、まとまらない。
東の空が、少しずつ明るくなっていく。
夜明けはまだ先だが、外輪山の内側の日の出は、どういう感じなのだろう。
そんなことを考えつつ、岩陰から正面の森の入口を見る。
そこに。
一人の人物が、ゆらりと立っていた。




