第44話
バネッサがいるオリヅル隊は、日が落ちる前に南口の目標地点へ到着した。
外輪山の外側からは、内側が見えない。
途中に曲がりくねった坑道があるためだ。
このため、オリヅル隊は南口の内側地点で、待ち伏せのための布陣を敷くことになった。
増援の到着は、最速でも一日半はかかる。
バネッサたちが使った旧旧ルートを使えば、もう少し早くなるかもしれない。
ただ、周りを見ると、さすがのオリヅルも消耗しているようだった。
あのルートは、到達後の活動に支障が出る。
ここは無難に、通常のルートでやってくると見ておこう。
ムギの報告による、盗掘者の身長や体格。
それを聞いているレモンの様子に、変化はなかった。
しかし、ハコネたちへのテストでレモンの腹芸を見たバネッサには、それが本当に無反応なのか、無反応を装っているのか、自信がなかった。
今回の盗掘犯が、レモンの先輩だった場合。
彼は社長室で、たとえ先輩であっても許せないと言っていた。
しかし、何らかの事情を聞いてしまった場合はどうだろう。
盗掘犯を逃がすかもしれない。
レモンの動向も観察しなければ。
そう思いつつ、バネッサは、こういうことを考えなければならないこの事件が、ほとほと嫌になってきていた。
外輪山の南口付近は、盗掘が行われているポイントから一キロメートルは離れている。
センサーの魔法波の有効範囲は、平均的な魔道具であれば二百から三百メートル程度。
周囲警戒をする者がこちらに近づいてくるか、こちらから目視確認する必要がある。
どのみち、お互いセンサーの目をくらます認識阻害装置で対策しているだろう。
つまり、通常の採掘時の警戒とは違い、本件においてはセンサーは当てにならないということだ。
自分自身の目と耳。
そして、勘が必要になる。
魔道具に頼りがちなテツが、今回、穴になる可能性がある。
バネッサは密かに、テツのサポートも考えなければならないと思った。
◆ ◆ ◆
オリヅルは監視ポイントを二か所設定し、夜間は交代する体制を取った。
バネッサは木の上の監視ポイントから、テツが潜伏しているであろう場所を眺める。
センサーの画面に集中しすぎなければよいのだが。
次に、レモンが休んでいるだろう場所を見る。
彼は今、何を考えているのだろう。
外輪山の内側だからだろうか。
あまり風を感じない。
上空を見ると、雲は流れている。
月明かりが、時折暗くなる。
時折、タヌキか何かが地面を掘っている音がする。
風もなく、停滞しているような森でも、生き物たちの営みは続いている。
雪が積もったら、どんな景色になるんだろう。
雪見うどんも乙かもしれない。
バネッサがそんなことを思っていると、木の幹に振動を感じた。
根元に、レモンが立ってこちらを見上げている。
交代。
ハンドサインが送られる。
バネッサは木を滑り降りた。
夜明けまで、あと五時間くらいだろうか。
お互い無言だった。
ハンドサインだけで最小限のやり取りをし、レモンと交代する。
いつものサングラスはしていない。
それなのに、顔の表情からは何も読み取れなかった。
おそらく、前後してテツも交代となるだろう。
明日のことを考え、バネッサは指定された場所で毛皮を敷き、仮眠を取った。
◆ ◆ ◆
夢の中。
大事な人たちが、私のうどん屋に来てくれている。
天ぷらを揚げて、うどんを煮る。
盛り付けも丁寧にして、さあどうぞ。
自慢の一杯ですよ。
美味しいよ、と言ってくれる。
うれしい。
頑張った甲斐があったものです。
食べ終わると、ごちそうさまと、一人ひとり席を立つ。
行ってほしくない。
お替り無料です。
何杯でも。
でも、カランコロンと店の扉を鳴らし、あの人たちは出ていくのだ。
「アネッサ、ア、アネッサ。お、起きて」
◆ ◆ ◆
「レモンさんがいない?」
パトラは不安そうな顔で頷いた。
「交代で、き、木のところに行ったら、う、上にいなかった。ま、周りを探したけど、ど、どこにもいない」




