第43話
数十分後、ムギが戻ってきた。
その顔を見て、ハコネは緊張する。
「採掘を行っている不審人物を複数確認しました。中央にある鉱山で作業しています。採掘作業は三名。周囲警戒が一名。他にもいるかもしれませんが、こちら側からは確認できません」
全員に緊張が走った。
この鉱山は、周囲を外輪山に囲まれている。
外輪山の内側は、ほとんどが垂直な崖になっていて、容易には登れない。
簡単に言うと、洗面器の中央に、少し低い鉱山があるような地形だ。
外輪山の中への侵入も、外への脱出も困難な場所である。
過去、アキの商館の採取師たちは、強引に外輪山をよじ登り、この鉱山を発見した。
その後、東側に比較的突破しやすい場所を発見する。
さらに後年、南側に平易に行き来できそうな小さな亀裂を発見し、そこを切り拓いた。
遠回りにはなるが、安全に往来できる現在のルートは、そうして獲得された。
「つまり、奴らの逃走可能ルートは、東側と南側の二か所に絞られます」
ムギが戻った後、ハコネが全員に説明した。
「盗掘者の作業中に遭遇できたのは幸運でした。ですが、相手の全容がつかめない以上、このパーティだけで制圧するのは危険と判断します」
今回のパーティは、バランスは良い。
しかし、実戦経験のある採取師が少ない。
無理に制圧しようとすれば、相手に逃亡される可能性がある。
あるいは、こちらが殺害してしまうリスクもある。
ハコネ、オリヅル、ムギは問題ない。
テツとパトラは実力こそあるが、実戦経験に乏しい。
ゲンも過去に実戦経験があるそうだが、かなり昔の話だ。
今回は案内役として来ているため、荒事には正直自信がないと、本人も自分の実力を認めている。
ジョナスについては、レンジャー特化という珍しい採取師で、戦闘はできない。
性格の問題なのだそうだ。風貌からは予想できなかったが。
バネッサとレモンについては、元々数に入っていなかった。
「なので、ジョナスに電波が届く場所まで戻ってもらい、ホリイ頭目とクロエ社長に増援を要請します」
ハコネは地図を示した。
「増援が来るまで、残ったメンバーは東側と南側を塞ぎ、逃走を防ぐ形にしようと思います。……レモンさん、いかがでしょう」
「よい判断だと思う。今回の急造チームでは、ハコネさんの考えが妥当だろう」
東側。
ハコネ、ムギ、ゲン。
南側。
オリヅル、テツ、パトラ、レモン、バネッサ。
連絡。
ジョナス。
ハコネとオリヅル、そしてレモンは話し合いの上、役割分担をこの形にした。
ブリーフィングの最後に、ムギが魔道具を取り出した。
「ハコネ。これ、提案なんだけど」
ムギは、小さな筒状の魔道具を見せた。
「この魔道具、花火って言うんだ。発光信号装置だね。発動すると、上空に花火みたいな魔法波を打ち上げる」
「ほう」
「東か南に敵が接近して交戦状態になった場合、互いに救援に駆けつけられないかな」
「うーん、打ち上げるタイミング次第だな」
ハコネは少し考えた。
「相手の人数も分かっていない。持ち場を離れた時、片方がおとりだった場合、取り逃がす可能性もある。オリヅル、どう思う?」
「現場判断として、危険な場合のみ使えばいいんじゃない? ハコネと私が持っていれば――あ、駄目か」
「どうした、オリヅル」
「私、もう枠がない。あたし、二個持ちなのよ」
ハコネのチームは、ムギが三個持ちで枠が空いている。
ハコネの指示で、ムギが打ち上げることができる。
オリヅルのチームで枠が空いていたのは、バネッサだけだった。
バネッサは実は六個持ちだが、ギルの言いつけで、周りには四個持ちと言えと言われている。
「あ、あの、私。枠、空いています」
「え、そうなの? アネッサさん、何個持ち?」
「えーと、四個持ちでして。無駄遣いして、新しい魔道具を買えなくて。えへへ」
全員が、小さな感嘆の声をあげる。
「すごいですね、アネッサさん。四個持ちの人は、僕も今まで数えるくらいしか出会っていませんよ」
ムギが、花火を手渡しながら言う。
「アネッサさん、適性は……ああ、大丈夫そうですね。使い方は簡単で……」
パトラは、テツを横目で見た。
魔道具オタクのテツは、とても羨ましそうな目でアネッサを見ていた。
ハコネが、オリヅルに囁く。
「移動を始める。オリヅル、南側は頼んだぞ」
オリヅルは黙って頷いた。
外輪山の外側の音は、内側には漏れない。
各員はそれぞれの配置に向かうため、静かに外輪山の外側を移動した。




