第42話
翌朝。
一行は、目的の採掘場に向けて出発した。
昨夜のやり取りの後遺症があるのか、多少のぎくしゃくは残っている。
それでも、速足での移動中、各人はハンドサインの確認などをしながら進んだ。
バネッサは、昨夜からの悪い予感を拭えないでいた。
このルートは、原始的だ。
この方向に鉱石がある。
センサーの情報だけを頼りに、まっすぐ進む。
そんな強行軍だった。
これまで見てきた盗掘跡の荒っぽさと、同じ匂いがしてならない。
そして、その予感は現実となる。
「第一関門だ。これを登る」
ゲンが肩を回しながら、こともなげに言った。
目の前には、二十メートルはありそうな絶壁があった。
ここにいる採取師は、皆優秀である。
これまでの訓練で、この程度の壁は登ってきた。
それでも、「第一関門」と言われて、全員がやれやれという顔になった。
手足の長いオリヅルとジョナスが、先行して登る。
二人は連携し、蜘蛛のように壁を登り、崖の上まで到達した。
ジョナスが二本のロープを垂らし、各員の荷物を、小さな滑車がついた自作の道具で器用に引き上げる。
オリヅルもロープを垂らし、途中の難所で、登ってくる仲間をサポートした。
腕が肩より上に上がらないレモンも、足の力を使って難なく登りきる。
全員が登りきり、一息ついたところで、ゲンが言った。
「問題なさそうだな。じゃあ、次はあそこだ」
ゲンの親指の先に、今登ってきた崖の二倍はありそうな崖が見える。
レモンが、ぱんぱんと手を叩いた。
「大丈夫。みんな優秀だ。心配するな。このルートでは、死人は出たことはない」
そこで一度、言葉を切る。
「アキちゃん時代の罰ゲームに使われていた程度のルートだ。慣れれば大したことはない。けど、気は抜くなー」
朝日が昇る中、ロープを握りながら、テツは思う。
これ、クロエ商会の採取師選抜テストの三倍はきついぞ。
当時のアキ商会って、タガが外れてるんじゃねえのか。
◆ ◆ ◆
数時間後。
テツは、自分がどうやって最後の崖を登ったのか、よく覚えていなかった。
「これで登りは終わりだ。十分休憩。標高が高いぞ。汗の処理をしておけ」
ゲンの声に、テツはようやく終わりかと安堵した。
オリヅル先輩は、腰に巻いていたツナギの上の袖を通しながら、吐いているパトラの背中をさすっている。
ジョナス先輩はいつも通り無表情で、回収したロープの点検をしながら、何かに向かってぶつぶつ言っていた。
「大丈夫かー、テツ」
ムギ先輩が声をかけてきた。
近くの岩に寄りかかり、息を整えている先輩は、髪の毛までびしょびしょだ。
テツが平静を装って頷くと、ムギ先輩はにやりと笑った。
そして、立ち話をしているハコネとレモンとゲンの方へ、よろよろと歩いていく。
テツは、戦闘特化として訓練を受けてきた。
小柄なムギについては尊敬している。
ただ、肉体の性能としては、自分の方が上だと思っていた。
だが、体力は完全に負けているようだ。
トレーニングの内容を見直そう。
テツは、握力がほとんどなくなった両手を、頬に叩きつけた。
バネッサは、最後の最後で体力を使い果たし、ジョナスのロープで引き上げられた。
「あの大岩の向こうから、目標地点を俯瞰できるそうだ」
ハコネが、緊張した表情で小声で指示を出す。
「各員、このあと打ち合わせをする。それまで私語は厳禁。音を立てるな。ムギ、目標地点の観測を頼む」
ムギは無言で頷き、遠くに見える大岩へ向かって静かに歩いていった。
寒い。
テツは起き上がり、汗をぬぐいながら立ち上がった。




