第41話
ハコネが思わず立ち上がった。
「ちょっと、待ってください、レモンさん」
「ハコネリーダー、すまない。ルートを読まれている可能性がある以上、鉢合わせなり尾行の危険があるので、ゲンに俺が勝手に指示をだしたんだ」
「だからって」
「加えて、早急に現地に着くことも優先した。この旧旧ルートなら、明日の日の入り前に現場に到着する」
「……急いだ理由を教えて頂けますか」
「オリヅル嬢の報告から逆算して、盗掘者がすでに採掘に入っている可能性があると考えた」
「ホリイ頭目の説明では、もう少し遅いはずですが」
「今回の盗掘者は、面倒な箇所の採掘を避けていたとアネッサから聞いている」
「はい、それは私も他の場所を見て知っています」
「オリヅル嬢が報告した盗掘された鉱山は面倒なポイントばかりなんだ。採掘を2日もしくは1日に短縮していたかもしれない」
ハコネは目を瞑って聞いている。
「……このルートは、アキ商会が創設時に開発したものだ。難所中の難所だが、踏破できれば最新ルートより確実に早く現地に到達できる。俺の想定通りなら今回の盗掘者はこの難所ルートは選ばない。今までこのようなルートを選んでいないからだ。早く到着できれば待ち伏せができるかもしれない。また、運が良ければ盗掘の最中に間に合うかもしれない。……これが俺が到着を早めることを優先した理由だ」
「……理由は納得しました。それで僕に、というかホリイ頭目にも事前説明しなかった理由を教えてください」
「思いついたのが森の入り口だったからだ。それと……気を悪くさせてすまないが。俺は今日あんたらと初めて会ったんだ。もしかすると内通者かもしれない。なので試させてもらった。違うルートを進んでいて違和感を覚える奴がいないか観察させてもらった。ゲンは昔から知っている。頭も悪いし腕もまだまだで質の悪いセンサーを買い替えもしないで使っているような奴だ。根は良い分、腹芸はできない。こんな奴は内通者には向かないしできない。何よりアリバイもあるとテツに聞いた」
「レモン先輩、ひどいぜ、その言い方」
ゲンが苦笑いしてつぶやく。
「アネッサ、テツ、パトラは最新の盗掘には関わっていない。なにより俺が一緒に遠い別の山にいたのが証拠だ。そしてこの三人は漏洩できる情報を持っていない。ルート制作もできないひよっこだ。あ、一人例外はいるが、そいつはちょっと他の理由で容疑から外している。……オリヅル嬢は多少微妙だったが、今朝自己紹介で本件に参加したのが一ヶ月前、それまで九州に遠征していたと聞いた。内通は物理的にできなかっただろうというのが、俺の判断だ」
「残るはあんたら、リーダーとムギ君、ジョナス君だ。君らはクロエから派遣された最初のメンバーらしいが、今朝の自己紹介からはその前の話が見えなかったし、聞く時間も無かった。まあ、車の中で聞けばよかったんだが」
「森の入り口に、何故か沢山車が停めてあった。1台でも0台でもなく、沢山だ。アネッサやテツとパトラははそれがどういう意味か分かっている反応をしていた。だから分かりやすい。敵が居るのか居ないのか分からないという不安が見えた。オリヅル嬢も分かりやすい。敵が居るかもしれねえって喜んでた。
だけど、リーダー、あんた達の反応が読めなかった。無反応だ。だからルート変更をゲンに指示したんだ。あんたらを試させてもらう為に。……これが理由だ。もう一度言うが、こんなことしてすまなかった。俺はこういうことで仲間かどうか試す男なんだ」
ハコネは目を開き、レモンを見る。
「……理由は理解しました。納得もしましょう。つまり、これはレモンさんなりのテストだったんですね」
「そうだ、リーダー」
「私達、合格ですよね、種明かしして下さったのですから」
「……ああ、悪いな、人が悪くて」
「いえいえ、もっと人が悪い人知ってますから慣れています。おい、ムギ、ジョナス。俺達、森の前の緊張感が無いって怒られたんだぞ。立て!」
ムギとジョナスはしゅんとしながら立ち上がった
「ご指導ありがとうございました!」
三人が頭を下げる。
◆ ◆ ◆
バネッサはその光景を懐かしく見ていた。
理由は後付け。レモンさんは最初からこの中に内通者なんていないと思っている。
これは急造パーティの結束を高める、「最初の喧嘩吹っ掛け」だ。
ギルさんのお家芸だったなあ。喧嘩するほど仲が良い、とか言ってたけど、その後のフォローを私にさせていたのはいただけない。ただ、確かに効果はあった気がする。
ムギさんとジョナスさんの不機嫌さや、リーダーのハコネの仕事に対する慣れたルーチン感が、気に食わなかったのだろう、レモンさんは。
しかし、全員の前での公開処刑は辛らつだ。これが東北スタイルなのだろうか。
また、ハコネさんの返しもスマートかと思いきや、締めが体育会系。
クロエさんのとこの採取師ってトップになるとこうなるのか。パトラがこうならないよう祈るばかりだ。
しかし、旧旧ルートなるものがあったなんて。難所というか危険なルートとか、面倒で嫌だなあ。




