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第41話

ハコネが、思わず立ち上がった。


「ちょっと待ってください、レモンさん」


「ハコネリーダー、すまない。ルートを読まれている可能性がある以上、鉢合わせなり尾行なりの危険がある。だから、ゲンに俺が勝手に指示を出したんだ」

「だからって」

「加えて、早急に現地へ着くことも優先した。この旧旧ルートなら、明日の日の入り前に現場へ到着する」


「……急いだ理由を教えていただけますか」


「オリヅル嬢の報告から逆算して、盗掘者がすでに採掘に入っている可能性があると考えた」


「ホリイ頭目の説明では、もう少し遅いはずですが」

「今回の盗掘者は、面倒な箇所の採掘を避けていたと、アネッサから聞いている」

「はい。それは私も、他の場所を見て知っています」


「オリヅル嬢が報告した、盗掘された鉱山だが。あそこは、面倒なポイントばかりなんだ。採掘を二日、もしくは一日に短縮していたかもしれない」


ハコネは、目を瞑って聞いている。


「……このルートは、アキ商会が創設時に開発したものだ。難所中の難所だが、踏破できれば、最新ルートより確実に早く現地へ到達できる」


レモンは、焚火の向こうで静かに続けた。


「俺の想定通りなら、今回の盗掘者はこの難所ルートを選ばない。今まで、このようなルートを選んでいないからだ」

「……」

「早く到着できれば、待ち伏せができるかもしれない。また、運が良ければ、盗掘の最中に間に合うかもしれない」


レモンは、ハコネに頭を下げた。


「……これが、俺が到着を早めることを優先した理由だ」

「……理由は納得しました」


ハコネは、ゆっくりと言った。


「それで、僕に、というかホリイ頭目にも事前説明しなかった理由を教えてください」

「思いついたのが、森の入口だったからだ」


レモンは、少しだけ言葉を切った。


「それと……気を悪くさせてすまないが、俺は今日、あんたらと初めて会ったんだ」

「……」

「もしかすると、内通者かもしれない。だから試させてもらった。違うルートを進んでいて、違和感を覚える奴がいないか、観察させてもらったんだ」


レモンは、ゲンの方を見た。


「ゲンは昔から知っている。頭も悪いし、腕もまだまだで、質の悪いセンサーを買い替えもしないで使っているような奴だ」


「レモン先輩、ひどいぜ、その言い方」


ゲンが苦笑いしてつぶやく。


「だが、根は良い。腹芸はできない。こんな奴は内通者には向かないし、できない。何より、アリバイもあるとテツに聞いた」


レモンは、次にバネッサたちを見た。


「アネッサ、テツ、パトラは、最新の盗掘には関わっていない。何より、俺が一緒に遠い別の山にいたのが証拠だ」

「……」

「そしてこの三人は、漏洩できる情報を持っていない。ルート作成もできないひよっこだ」


レモンは、ちらりとバネッサを見た。


「あ、一人例外はいるが、そいつはちょっと他の理由で容疑から外している」

「……」

「オリヅル嬢は多少微妙だったが、今朝の自己紹介で、本件に参加したのが一か月前、それまでは九州に遠征していたと聞いた。内通は物理的にできなかっただろう、というのが俺の判断だ」


レモンは、ハコネ、ムギ、ジョナスへ視線を移した。


「残るはあんたらだ。リーダーと、ムギ君、ジョナス君」

「……」

「君らはクロエから派遣された最初のメンバーらしいが、今朝の自己紹介からは、その前の話が見えなかった。聞く時間もなかった。まあ、車の中で聞けばよかったんだが」


レモンは、少しだけ肩をすくめた。


「森の入口に、なぜか沢山車が停めてあった。一台でも、ゼロ台でもなく、沢山だ」

「……」

「アネッサやテツとパトラは、それがどういう意味か分かっている反応をしていた。だから分かりやすい。敵がいるのか、いないのか分からないという不安が見えた」

「……」

「オリヅル嬢も分かりやすい。敵がいるかもしれねえって、喜んでた」

「……」

「だけど、リーダー。あんたたちの反応は読めなかった。無反応だ」


レモンは、ハコネをまっすぐ見た。


「だから、ルート変更をゲンに指示した。あんたらを試させてもらうために」

「……」

「……これが理由だ。もう一度言うが、こんなことをしてすまなかった」


レモンは、頭を下げた。


「俺は、こういうことで仲間かどうか試す男なんだ」


ハコネは目を開き、レモンを見る。


「……理由は理解しました。納得もしましょう。つまり、これはレモンさんなりのテストだったんですね」


「そうだ、リーダー」

「私たち、合格ですよね。種明かししてくださったのですから」

「……ああ。悪いな、人が悪くて」


「いえいえ。もっと人が悪い人を知っていますから、慣れています」


ハコネは、ムギとジョナスの方を見た。


「おい、ムギ、ジョナス。俺たち、森の前の緊張感がないって怒られたんだぞ。立て!」


ムギとジョナスは、しゅんとしながら立ち上がった。


「ご指導ありがとうございました!」


三人が、揃って頭を下げる。


◆ ◆ ◆


バネッサは、その光景を懐かしく見ていた。


理由は後付けだ。


レモンさんは、最初からこの中に内通者なんていないと思っている。


これは、急造パーティの結束を高めるための、

「最初(しょっぱな)の喧嘩吹っ掛け」だ。


ギルさんのお家芸だったなあ。


喧嘩するほど仲が良い、とか言っていたけれど、その後のフォローを私にさせていたのはいただけない。


ただ、確かに効果はあった気がする。


ムギさんとジョナスさんの不機嫌さ。

リーダーであるハコネさんの、仕事に対する慣れたルーチン感。


それが、レモンさんは気に食わなかったのだろう。


しかし、全員の前での公開処刑は辛辣だ。

これが東北スタイルなのだろうか。


また、ハコネさんの返しも、スマートかと思いきや、締めが体育会系だった。


クロエさんのところの採取師って、トップになるとこうなるのか。

パトラがこうならないよう、祈るばかりだ。


しかし。


旧旧ルートなるものがあったなんて。

難所というか、危険なルートとか。


面倒で嫌だなあ。

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