第37話
ハルとレモンは、まだしばらくこの車座で飲むようだ。
げっそりしているホリイの肩を、左右から宥めている。
オリヅルは、ちゃっかりと輪に入り、ビール缶を傾けていた。
ただ酒を逃したくないのだろう。
パトラは、空き缶やごみを捨てに行った。
しまった、女子力が負けてしまう。
バネッサは焦った。
クロエは、とバネッサが室内を見渡すと、彼は地図の前に立ったまま考え事をしているようだった。
何か、気になることがあるのだろうか。
気になってクロエの横に近づくと、彼はすぐに気づき、バネッサに軽く微笑んだ。
「いえ。これまでの被害箇所を見ていただけですよ」
「何か、気になりますか?」
「さっき車でオリヅルとも話したのですが、この盗掘犯、もし単独犯というか単独チームだったら、えらく勤勉だなと思いまして」
「確かに。休日返上って印象がありますね」
クロエはまだ、組織的な盗掘団である可能性を捨てていないのか。
バネッサも同様に、その可能性を捨ててはいない。
むしろ、そうであってほしいとすら思っている。
クロエは、その線は無視できない、と言った。
つまり、レモンの直感も完全には信じていない。
バネッサは、クロエのことを信頼している。
だが、こういう点が怖いと思う。
同時に、レモンの直感に傾きかけていた自分を反省した。
何か、考えから漏れている点はないだろうか。
レモンの先輩たちが犯人だとして、彼らの動きを最初からイメージし直してみることにした。
今まで盗掘された鉱山は、すべて「足が悪いような人でも行ける場所」にあった。
今回、青ピンを差した四か所も同様だ。
これは事実である。
「足が悪いような人」は、四か所のどれかを次のターゲットにしてもおかしくない。
これは可能性の問題だ。
違う。
そうじゃない。
もっと、フラットに考えよう。
単独犯でないのは、現場の状況と日程、そして輸送の問題から明らかだ。
つまり、「彼」ではなく「彼ら」。
これは大前提とする。
彼らは、森の入口から二日以内に容易に行き来できる鉱山だけを盗掘している。
森に入り、山で盗掘をして、また森から出る。
しかし。
森に入る前と、その後は?
森の入口とはつまり、そこから先は車で入れないという意味でもある。
距離を考えれば、車を使っているのは間違いないだろう。
そして、どこへ行く。
どこへ戻る。
補給も必要だ。
少なくとも食料は――。
「レモンさん。商圏内の森で自給自足はできますか?」
バネッサは、後ろで酒盛りしているレモンに声をかけた。
「できなくもないが、相当きついな。食い物を探すためだけに、ほぼ一日使うぞ」
なるほど。
それで鉱石を掘るなど、無理だ。
街で補給をしていると考えよう。
そして、掘った鉱石を持ったままでは活動できない。
どこかに隠している。
山の中は可能性が低い。
埋めるにしても、山に入り直す必要がある。
では、どこかに拠点を作っている?
この商圏内か。
遠隔地か。
◆ ◆ ◆
パトラはごみ捨てから戻り、アネッサと一緒に帰ろうと声をかけようとした。
しかし、アネッサは先ほどから壁の地図の前で、目の前を睨みながら、
「えっちゃっ……ちゃ? えっ……ちゃっ」
と小声でつぶやき、地図のあちこちを指差している。
「少し、放っておきますかね」
クロエが、パトラに微笑みかけた。




