第35話
レモンとバネッサは、過去十三年分の鉱山に至るルートを見比べた。
その結果、分かったことがある。
前々頭目。
初代頭目として、何年もかけて採掘ルートの基本形を完成させた人物。
完成後も、状況の変化に合わせて細かな微調整を行っていた。
だが、十年前に引退している。
前頭目。
二代目頭目に就任後、新しいルート開発はしていない。
現頭目、ホリイ。
一年前に頭目になった。
ルート開発のノウハウを引き継がれておらず、前任頭目のルートをそのまま使っている。
「これは、十年近くルートが変更されていないということですね、レモンさん」
「運用上は最適化されていたが、盗掘対策としては最悪だったな」
そういうことか。
盗掘者がアキの騎士たちならば、ハル商会の採取師の動きは読める。
一か月も観測していれば、ルート設計が十年前からアップデートされていないことに気づくだろう。
つまり、採取師が通過する時期と道筋を、ほぼ正しく予測できるのだ。
これは強い。
現在進行中の盗掘者捜索隊が成果を出せていない理由も分かる。
使うルートが固定されているなら、潜伏は容易だ。
捜索隊がどこを通るか分かる。
ならば、ルートからセンサーの範囲外まで離れるだけでいい。
おそらく盗掘者は、採掘に向かう、あるいは哨戒中の採取師たちをやり過ごし、その後をのんびり追う形で目的の鉱山に到着していたのだろう。
そして、悠々と掘っていた。
「大量の捜索隊を完全に欺いた理由は、これですかね」
「クロエのところの採取師が、自分の判断で調査した方が、まだ結果は違っていたかもしれないがな」
レモンは、苦い顔で地図を見た。
「商圏が広すぎることが仇になった。ハル商会の採取師が道案内したことが、逆に足を引っ張ることになったのかもしれないな」
「そんな、俺のせいで」
ホリイが、尻もちをついた。
「違う、ホリイ。お前のせいじゃない。お前は十分頑張っている。これは、お前の上の世代の責任だ」
「……しかし」
「いいから、二杯目を早く飲め。炭酸が抜けちまうぞ」
バネッサは二人を見つつ、先ほど気になった点についてレモンに質問した。
「レモンさん。この地図で、被害がなかった鉱山について教えてください。これらは、足の悪い方には行きづらい場所ですか」
レモンは、地図をあちこち見ながら唸った。
「確かに、優秀な鉱山が見逃されている。だが、どれも難所がある」
レモンは釣り竿の先で、盗掘被害のあった鉱山をいくつか示した。
「逆に、盗掘があった鉱山は、森の入口から徒歩で行きやすいところばかりだ」
◆ ◆ ◆
「なんだあ、静かだなあ。どうしたよ」
社長室兼作戦室の扉が開き、ハルが顔を出した。
その後ろに、クロエ、テツ、オリヅルの姿も見える。
「混ぜてもらおうと、追加の酒を買って来たぜ」
にこにこ顔のハルが、笑いながら言った。
◆ ◆ ◆
「なるほど。ルートが更新されていなかったというのは盲点でした」
クロエはレモンから説明を受け、顎に手を当てた。
「あと、楽な鉱山ばかりを狙っているかもしれない、というのは無視できないですね」
バネッサは、話が進むほどハルの顔色が悪くなっていくのが気の毒だった。
先ほどのにこにこ顔を思い出すと、悲しくなる。
彼をここに入れてしまったのは、間違いだっただろうか。
「テツ、パトラ。足の悪い者でも到達できて、未だに被害がない鉱山のピンを青色に変えてみてください」
二人は、この二か月で多くの鉱山に足を入れている。
行ったことがない鉱山については、レモンが助言した。
「あと、私は先ほど調査業務から戻ってきたのですが」
オリヅルが立ち上がり、ホリイに一礼する。
「先ほど担当の方にもお伝えしましたが、盗掘を発見しましたので、私だけ戻って報告に来ました。ここです」
テツが青色に差し替えたばかりの鉱山のピンが、赤に変わった。




