第34話
「すみません。お待たせしました、レモンさん」
「ホリイ。こっちはもう、始めてるぞ」
レモンとホリイ、バネッサ、パトラが車座に座り、酒盛りを始める。
バネッサは烏龍茶だが、他はビールだ。
最初は、あまり酔っぱらうと駄目なのですが、と言っていたホリイだったが、本人的にも飲みたい気分だったのだろう。
一杯目の缶を、一気に飲み干した。
あまり酔わせてもまずい。
ホリイの酒量を知らないバネッサは、少し焦る。
早く色々と聞いた方が良い。
だが、タイミングを計りかねる。
「あー、アネッサ。お前、ホリイに聞きたいことがあったんじゃなかったか」
「聞きたいこと? なんだい、アネッサさん」
「えっと、東北の採取師頭目さんの、ルートの決定方法についてです。私の地方と違うので、その違いとか」
「すまない。それは秘密事項になるから言えないんだよ」
「ああ、具体的なルートではなく、考え方というか、どうやって決めるのかだけでも」
うーん、とホリイは二杯目のビールを見つめながら悩んだ。
「まあ、それなら良いでしょう。クロエさんにも、アネッサさんが聞いてきたことにはなるべく答えてくれと言われていますし」
ホリイが立ち上がる。
特に酔っている感じはない。
バネッサは少し安心した。
ホリイは、地図のある壁へ近づく。
右足を軽く引きずっていた。
言われなければ気づかない程度だが。
足が悪いと、今回レモンたちと行った採掘場まで行くのは難しいだろう。
パトラたちと最初に三人で行った場所なら、比較的楽だから問題ないだろうが。
楽……?
バネッサは、何か引っかかった。
あとでレモンさんに確認してみよう。
◆ ◆ ◆
ホリイは釣り竿を使い、地図を示しながら説明を始めた。
東北の採取師の特徴である、集団による連続採掘。
その基本的なところから、丁寧に説明が始まる。
この辺りはレモンに教えてもらったので、復習程度に聞いておく。
季節によって、川の増水や、寒くなった時期の凍結による影響を考えてルートを決めるのだという。
また、長年の研究で、距離が近い鉱山同士でも直線的には向かわず、遠回りでも安全な道を使うようになっている。
ルートの開発は、少しずつ進化してきたらしい。
新たな道路ができる。
近くに新しい施設ができ、人の目が増える。
年を経るごとに、条件は変わっていく。
頭目はそういった状況の変化を常に調査し、状況に合わせて商圏全体の採掘計画を練っていくのだ。
「すごいですね。いつもそんなことを考えながら、ルートを決めるのですね」
「いや、俺は新しいルート開発はまだ勉強中でね」
「ん?」
「恥ずかしい話だが、過去のルート計画をそのまま真似しているだけなんだ」
「へ?」
「ルート開発のやり方を教わってなかったんだよ。前任の頭目が急死してね」
レモンとバネッサが、目を見合わせる。
レモンが、ホリイに優しく言った。
「そりゃあ、大変だったよな。ちなみに、ここ十年くらいのルートの記録ってあるかい?」
「はい。そこの社長席の後ろの棚にありますよ」
酒もそこそこに、レモンとバネッサは棚に飛びつき、そのファイルを引っ張り出した。
「アネッサ。今の時期のページを開け。そして、左から新しい順にファイルを床に並べろ」
「はい!」
地図の前のホリイは、なんだ、という顔で二人を眺めていた。
「くそ。アキちゃん時代のファイルは無いのか、ホリイ?」
「えっと、えっちゃんなら知っているはずです」
「三年程度でいい。アキちゃん時代のルート記録のファイルを、急いで持ってきてくれ」




