第33話
「アネッサ、俺を外したい気持ちは分かる。多分お前は、俺と同じ結論、……いや仮定をしているんだろう」
「私、……まだ何も言ってません」
「パトラから、お前はクロエが他所から連れてきた採取師だと聞いた」
「……」
「あのクロエが、半端な採取師を選ぶとは思えない。あのプロフィールは嘘だな」
「……」
「まあ、それはどうでもいい。ちょっと俺の話を聞いてくれ」
レモンは、壁から一つの額縁を外してバネッサに見せた。
中央に若いアキが仏頂面で立っている。周りに5人の男たちが、変顔でふざけている写真だ。
「アキちゃんと、この地に来る前から彼女に付き従っていた採取師達だ。俺の先輩になる。彼らがこの辺りの鉱山をたくさん発見して、彼女を商人にしてやったんだ」
「先輩たちはアキちゃんが大好きでな。でも恋愛とかじゃない。……騎士みたいな感じだった。この人達はアキちゃんの商人になりたいという夢のために、広大な山々を練り歩き商圏を作った。そしてこの地にこの商館を建てたんだ。」
「すごく優しくて気さくな人たちだったよ。後輩だけど年上の俺にも丁寧でな。……この人はムーバー先輩。すごい力持ちでな、みんなこの人に育て直された。ガサツで仕事は大味だが涙もろくてな、みんな大好きだった」
巨大なつるはしを背負う、筋肉質だが小柄な青年が変なポーズをとっていた。
「この五人は商会がうまく回るよう、自分を犠牲にして働いていた。無表情なアキちゃんが仕事が成功すると大笑いするのが……ご褒美だったんじゃねえかな、って今も思う」
「アキちゃんがハルと結婚した時は、皆、さすがに荒れていたよ。でもこのモーリさんって人が4人をなだめたんだ。5人の……いや、当時の俺たちの司令塔みたいな人だ。クネクネして泣き虫だったけど、不思議な……徳みたいなのがある人だったよ」
アキの後ろでスーツ姿の長身なハンサム男が、女性みたいなセクシーポーズでウインクしている。
「でも、結局全員、互助会出身のハルのことは最後まで認めなかったけどな。それでも5人はその後も仕事をちゃんと続けていた。20年間、アキちゃんの為に5人は頑張った。……本当に頑張っていたんだ」
「でも、アキちゃんが死んで、嫌っていたハルが後継者になって、先輩たちの心が折れたんだ、と思う。そして、この5人が他の採取師を引き連れて辞めたと言われるが……」
「俺は違うと思っている。そう、思いたい。なぜなら、この先輩たちはいいやつらだったからだ」
◆ ◆ ◆
バネッサは静かに聞いていた。悲しかった。
ハルと5人は最後まで折り合いがつかなかったのか。
ハルが互助会出身者だから、というのは言い訳だったのだろう。求心力がありすぎたアキが原因の不和。そう考える方が自然だ。
商人と互助会の間をとりもっていたアキ本人が、身内の関係を改善できなかったという皮肉が悲しい。
「噂では商会を辞めた5人はそれぞれ日本の各地に行ったそうだ。その後、この司令塔役のモーリさんは死んだと聞いた。他の4人の消息は分からない」
「レモンさんは、彼らが集まって今回の件に関わったとお考えですか?」
「全員じゃないかも知れないが」
「でも、なぜ今になって……10年も経ったこの時期に」
「……それは分からない」
バネッサは腕を組んで考える。
「動機は復讐、でしょうか。例えば本来アキさんの商会をハルさんから取り上げて乗っ取るとか」
「先輩たちは商人じゃない。技量は人並み以上だがあくまで採取師だ」
「それでは、ハルさんの物にする位なら、いっそ潰してしまえ、とか」
「その線の方が、分かり易いな。しかしなぜ今更という疑問は残る」
「先輩たちの中のどなたかが、余命宣告を受けて、自分が死ぬ前に商会を、的な」
「可能性としてはあるが、俺には何とも言えない」
パトラが、スーパーの袋を二つ両手に持って部屋に入ってきた。
「さ、酒屋、結構、と、遠かったです。」
「ごくろうさま、パトラ」
部屋をきょろきょろとし、パトラがバネッサに聞く。
「あれ、く、クロエさんは?く、く、車があったけど」
クロエが来ている。これは、良いことなのか悪いことなのか。
レモンが写真を壁に戻しながら言う。
「だから、アネッサ。まだ外部犯の可能性もあるが、……俺は最後まで見届けたい」
「……でも」
「いいや、もし仮に先輩たちが犯人だとして、動機や目的がどうであれ、盗掘という手段に出たことに俺は怒っているし、きちんと裁きを受けて欲しい」
「……」
「この結末を知らないまま墓には入りたくないんだ」
「……分かりました」
「お前が何を言おうと、俺は首を突っ込むからな。だから情報は出し惜しみするな」
レモンがバネッサの肩をポンポンと叩く。
バネッサは黙って頷いた。




