第31話
翌朝。
焚火の後始末をして、最初の目的地に向けて出発した。
「レ、レモンさん。毎日、た、焚火ができて、う、嬉しいです」
「そうだな、パトラ。この山は焚火ができるから、俺も好きなんだ」
「レモンさんが、洞穴を、ほ、ほ、掘ったのですか?」
「いや。穴は、もう先輩たちに掘られてた。俺たち後輩は、数年かけて床を平らにしたりしただけだ」
まるで、おじいちゃんと孫のようだ。
バネッサは、パトラを取られたような気分をほんの少し感じて、頭を振った。
いやいや、パトラが男の人に話しかけられるようになる方が大事。
午前中に、第一の採掘ポイントへ到着した。
テツが周辺を警戒している中、バネッサとパトラとレモンが鉱脈を調査する。
昼過ぎまで調べたが、どこにも盗掘されたような痕跡はなかった。
「問題なさそうだな。少し雲行きが怪しい。今日のねぐらに急ぐぞ」
パトラとバネッサは、焚火に使えそうな木材を拾いながら、速足で移動するレモンとテツを追った。
◆ ◆ ◆
無事、雨が降り出す前に、本日の洞穴へ到着した。
パトラが、いそいそと焚火の準備をする。
レモンとテツは地図を開き、明日のルートを確認していた。
雨が明日まで続くと、悪路になる可能性がある。
バネッサは、洞穴の奥の壁を見た。
やはり、気になる痕跡がある。
パトラを手招きした。
「パトラ。これ、見てくれる」
「な、何?」
荒っぽい壁の掘り方。
そこに、特徴的な掘削跡があった。
それは、最近見たばかりのものに似ている。
盗掘現場で見た跡に、酷似しているように思えた。
「どう思う?」
「に、似ているかも。あ、あまり他で見ない、さ、サイズの工具の、あ、跡」
レモンは、今朝言っていた。
洞穴は、先輩たちが荒く掘った。
自分たちは、床を平らにした程度だ、と。
この壁を削った跡が、盗掘跡と同じかどうかは分からない。
一部は風化している。
ただ似ているだけだと言われれば、反論は難しい。
テツは基本、周囲警戒が担当だ。
先週の二回の調査では、盗掘された跡を見ていない。
相談するのはやめておこう。
そして、バネッサはこの件について、現在は引退しているレモンを引き込みすぎるのもまずいと考え始めていた。
壁の傷は逃げない。
このことは、今はレモンに伝えないことにした。
◆ ◆ ◆
数日後。
レモンたち一行は、帰路の車中にいた。
今回の調査業務の結果は、二か所とも盗掘の痕跡なしで終わった。
あとは、商会で報告するだけである。
パトラは、報告書用の現場写真を選んでいる。
テツはいつも通り黙ってハンドルを握り、助手席のレモンはいびきをかいて寝ていた。
バネッサは遠くの山をぼんやり見ながら、手元のお菓子を食べる。
まだ、商館が閉じる時間までは十分に余裕がある。
目を覚ましたレモンが、またファミリーレストランに寄ってくれと言った。
レモンは、町に帰ってきたら、まず肉を食う。
それが流儀らしい。
食事の際、バネッサはレモンにお願いした。
今回の報告に、同席させてほしい、と。
レモンは肉をフォークに突き刺しながら、快諾した。
また、奢ってもらってしまった。
先輩は後輩に奢る。
それも、レモンの流儀らしい。
夕暮れになる前に、車は商館へ着いた。




