第30話
翌日の夕方前まで、一行は次の宿営地に向かって岩山を登った。
なかなかの難所だ。
それでも、これが一番楽なルートなのだそうだ。
往路も大変だが、復路は重い鉱石を担いでここを下ることになる。
これは大変だ。
レモンは大型の水筒を担いでいるとは思えない軽快さで、ひょいひょいと登っていく。
とても七十歳の老人とは思えない。
道中、パトラはレモンからルート取りのコツなどを、ふんふんと聞いていた。
作戦行動中は必要以上にぴりぴりしていることの多いパトラだが、今回は良い感じに力が抜けているようだ。
二日目の宿営地に到着した。
ここも昨日と同様、岩陰に巧妙に隠された洞穴がある。
昔、アキ時代に作った野営用の穴なのだそうだ。
「自然にできたように、巧妙に細工していますね」
「何年も手を入れたからな。でもまあ、入口付近だけだ。奥は雑だよ」
「確かに」
バネッサは、奥側の壁をちらりと見る。
「アネッサ。お前さんは採掘の成績が悪いと書いてあったが、本当なのか」
「そ、そうなんですよ。レモンさん。なんか運が悪くて」
「そうなのか。いい目をしているのに。へこまずに頑張れよ」
「ア、アネッサは、や、やれば、でで、出来る子だから」
まずい。
レモンさんこそ、目が良い。
少し、発言には気をつけよう。
◆ ◆ ◆
レモンが、また夕食にスープを作ってくれた。
具材は昨夜と同じだが、今夜は香辛料が違っていて、別の料理のようだった。
今日も、お腹いっぱいだ。
明日のストレッチは、少し重めにしよう。
焚火を囲み、昨夜と同じように雑談が始まる。
盗掘事件についても話題は出た。
だが、結局は推測ばかりで、もやもやしたまま終わる。
「レモンさん。ハルさんの商会の『頭目』は、どういう仕事をするんですか」
ふと気になったことを、バネッサは質問した。
「頭目?」
「私の地方とは、仕事内容がだいぶ違っている感じがしまして」
「そうだな。まず、全員の格付けと役割分担。あと大事なのが、採掘計画の立案と担当決め、ってところかな」
「最初の二つは、うちと同じですね。立案って何ですか」
「アネッサのところは中央に近いから、どこを掘るかは、採取師が自分らで決めて商会に提出するだろ?」
「提出しない商会もありますね」
「そうなのか。それはそれですごいな」
レモンは、少しだけ眉を上げた。
「でもハル商会、というか東北商人の商圏は広い。採取師たちが好き勝手に鉱山を選ぶと、バッティングする問題が起きる」
「問題? 喧嘩とかですか?」
「まあ、それもあるが。そこまで行った行程が、全部無駄になるだろう」
「確かに。わざわざ行ったのに、もう掘られていたら、しょんぼりですね」
「なので東北では、あらかじめ頭目が、お前らはここ、お前らはあそこ、みたいに指示するんだよ」
「商圏全域への指示ですか。大変ですね」
「大変だよ。だからみんな、頭目なんてやりたがらねえんだ。俺だってそうだ」
「ホリイさん、大変なんだ、やっぱり」
「ホリイの前の頭目も、適当な奴だったけど、それなりに大変そうだったな。初代頭目の弟分だったんだが、こっちで結婚したから、付いて行かずに残ってた」
「しかし、それだけ大変だと、お手当も良いのですかね」
「それは知らねえな。ただ、頭目ってのは、怪我とかで山に入れなくなった奴を救済する役割って側面もある」
確かに。
ホリイさんは、足を悪くしたと言っていた。




