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第27話

四十年前。


東北商人グループに、新しい商人が加わった。


「氷姫」の二つ名を持つ女商人。

名前は、アキと言った。


採取師の待遇が良いと聞き、当時三十歳だったレモンは、友人と共にアキの元へ参じた。


すぐにアキの商会は管理限界に達し、募集が打ち切られた。


それくらい人気だった。

レモンは、自分は運が良かったのだと思った。


アキは、皆の人気者だった。


普段は無表情なのに、よく笑い、よく泣き、よく怒った。

金払いも良く、面倒見も良い。


アキは、レモンに嫁の紹介もしてくれた。


相手が互助会出身の女だと聞き、レモンは最初、断った。


理由は単純だ。

そういう風潮だったからである。


互助会出身者には、関わらない方が良い。

そう思っていた。


しかし、アキに引っ張られ、女に会いに行くことになった。


実際に会うと、普通の女だった。


いや、普通どころではない。

良い女だった。


当時としては、行き遅れとも言える年齢だった。

だが、数回会った後、レモンは自分から、嫁に来てくれと言ってしまった。


仲間の採取師たちは、最初こそ良い顔をしなかった。

だが、そのうち話題にもならなくなった。


アキが病気で入院したと聞き、レモンと仲間たちは動揺した。


毎日、誰かが見舞いに行った。


退院してきた時には、全員が仕事を放り出して山から戻った。

だが、逆にアキに怒られ、とんぼ返りさせられた。


しかし、その二年後。

アキは癌で亡くなった。


全員が絶望した。


見切りをつけた者が、次々と辞めていく。


六十歳になっていたレモンも、ちょうど良い頃合いでもあり、引退を考えた。


だが、嫁の助言もあった。

身体が動くうちは、アキへの恩返しのつもりで残ることにした。


しかし、商会を継いだハルは、妻を亡くした喪失感で心が折れてしまっていた。


ハルは裏表がない男だった。

互助会出身というのも気にならないくらい、良い奴だった。


仲間内には、互助会出身であることを理由に、ハルを毛嫌いしている奴もいた。

だが、レモンは気にしなかった。


しかし、アキの死後のハルは違った。


別人のように、魂が抜けたような笑みでこちらを見る。


最初の頃は、無理もないと我慢した。


だが、いくら経ってもハルは一向に復活しない。


採掘業務は、採取師頭目に全部丸投げ。

ハル自身は、社長室に籠っている。


見た目は、少しずつ前のように戻ってきていた。


だが、前とは違う。


何か一枚、見えない膜のようなものを感じた。


五年我慢した。

だが、こちらも限界だった。


レモンは、年齢を理由に引退を告げた。


◆ ◆ ◆


「引退されたのに、どうして今回の探索に参加されたのですか?」


「先週、ホリイがやってきて、土下座してきたんだ」

「人手が足りないと?」

「まあな。表情が必死だった。どうせ暇だし、了承したんだ」


「後輩だったから?」

「いや。奴とは、あまり喋ったことはない。あいつは、ハルの代になってから入ってきたからな」


「……事態が深刻だったから?」


「いや。盗掘の件は、手伝うことを了承した後に初めて聞いた」


「え?」

「事情が……というより、ホリイの奴が不憫でな」

「?」

「あいつ、まだ頭目になって一年なんだと。前の奴が卒中で死んで、引き継ぎもろくにされてなかったらしい」


「えええ?」


レモン以外の三人が、驚きの声を上げた。


「アキちゃんが死んで、商会はボロボロだ。俺もしまいには辞めたしな。一番割を食っているのが、目の前の青い顔をしたホリイなんだと思ったらな」


レモンは、少しだけ目を伏せた。


「……これは俺にも責任があるなと思ったから、請けたんだ」

「……そうでしたか」


「山を見てきてくれるだけでいい、って言われちゃな。まあ、俺にとっちゃピクニックみたいなもんだし、孫に何か買ってやろうかなってな」


バネッサは、レモンが冗談めかしたことも言うのだと、少しおかしくなった。


最初のうちは、こちらの様子を見ていたのだろう。


この人は、根っからの採取師なのだ。

改めて、そう思う。



しかし、このドライブで得られた情報は大きい。


他の情報と合わせて考えると、商会の崩壊は、アキさんの死後から始まっていると見ていい。


採取師が半分以上去り、組織はがたがた。

再建は頭目に丸投げ。


逆によく十年持ったものだ、と言える。


そして一年前に、採取師の頭目が変わった。


これは、クロエさんは知っているだろう。

だが、いつ知ったのかが気になる。


一年前。


クロエさんがグループの総帥になったのも、その頃のはず。


何か引っかかる。

関係があるのだろうか。


頭のノートに書いておこう。


バネッサは、今回の盗掘者の「見事すぎる」潜伏の要因として、探索計画の漏洩があるのではないかと考えたことがある。


その場合、最大のキーマンはホリイだ。


ホリイの人柄や仕事ぶりは、バネッサも直接見ている。

善良で、有能な人物だとは思っている。


今のレモンの話からも、がたがたの商会に残り、頭目の仕事もおそらく押し付けられたのだろうと分かる。


しかし、それでも。


無意識に、あるいは脅されて、情報を流した可能性はある。


だが、これくらいはクロエが気づかないはずがない。


必ず、ホリイの身辺調査は進めた。

もしくは、今も進めているはずだ。


これは、クロエに任せよう。

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