第26話
早朝。
バネッサは、パトラと一緒にハルの商館前へ向かった。
テツと、小柄な男性が立っていた。
男は、レモンと名乗った。
今回のパーティーリーダーだ。
小柄だが、頑丈そうな老人だった。
両腕と両脚が太い。
特に足腰が強そうで、長年の採掘歴を思わせる。
戦闘術も、何か持っていそうだ。
野球帽にサングラス。
ランニングシャツに、登山用の分厚い生地のパンツ。
ブーツは古そうだが、よく手入れされている。
一同は車に乗った。
運転はテツ。
助手席にレモン。
後部座席には、女子二名。
テツにはすでに説明済みなのだろう。
レモンは地図を二人に渡し、今回のルートについて簡潔に説明した。
昨日の定例会議にはいなかった。
昨日の老採取師たちのような、ガサツな感じもしない。
レモンは口数が少ない。
だが、聞かれたことには答える。
主観を入れない説明は採取師らしく、バネッサは好感を持った。
パトラが珍しく、自分からレモンに、お菓子を食べても良いかと聞く。
レモンは、うなずいた。
しばらくすると、今度はレモンが手を差し出してきた。
「俺にも分けてくれるか」
◆ ◆ ◆
今回のルートは、南部地域の奥地だった。
遠回りにはなるが、森の入口近くまで車が通れる公道がある。
予定では、昼過ぎに到着するらしい。
結構なドライブになる。
休憩を兼ねて、途中にあるファミリーレストランへ寄った。
普通なら、このタイミングで食事は取らない。
だが、レモンはモーニングのパスタセットを注文した。
お前らは食わないのか、と言われ、全員同じものを注文する。
「俺は五年前に採取師を引退したんだ」
レモンは、今年で七十歳になるという。
正直、見た目からはそうは見えない。
今でも趣味で山に登るらしい。
健康なのは、そのおかげだろうと、事もなげに言った。
孫が五人いるそうだ。
今回は、孫と山登りするような気分だ、と、笑いもせずに話した。
こんな若造たちとでは不安だ、とも言わない。
孫みたいな連中と一緒に山へ登れて楽しい、とも言わない。
こういう一言が足りないところも、採取師だなあと、バネッサは内心で笑った。
結局、全員レモンに奢ってもらってしまった。
お礼にと、パトラがお菓子を差し出す。
「おう」
レモンは、短く返して受け取った。
「レモンさん、まだ体も丈夫そうなのに、引退されたのですね」
「肩がな。もう上がらないんだ」
「そうでしたか」
「先代が亡くなって、しばらくは残っていたんだけどな」
「アキさん、でしたっけ。素敵な女性だったと聞きました」
「ああ。俺たちにとっては、女神さまのような人だった」
「アキさんのこと、教えてくれますか」
「ん?」
「同じ女性として、見習いたいなあって」
レモンは、少しだけ黙った。
それから、
「参考になるかは分からんが」
と言って、古い話を語り始めた。




