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第25話 「アジフライ」

ハルアキが、宿舎であるアパートまで送ってくれた。


バネッサは手を振って見送り、部屋に戻る。


隣のパトラの部屋には、気配がない。

まだ戻っていないのだろうか。


とりあえず、シャワーを浴びる。

今日、何回目だっただろう。


薄緑色のワンピースに着替え、食事に行こうと思う。


うどん屋か。

居酒屋か。


いつもの居酒屋に行くと、商会関係の誰かに会いそうで嫌だった。


嫌だったが。

やはり、アジフライ定食が食べたい。


居酒屋の前に到着し、扉を少しだけ開けて店内を見る。


奥の座敷はさすがに見えない。

だが、カウンターにもテーブル席にも、見知った顔はなかった。


バネッサは喜々として入店した。

カウンターに座り、アジフライ定食を注文する。


「はい、お待ち。アジフライ定食。一つおまけしたよ」

「わーい、ありがとうございます」


最初は、醤油にするか、ソースにするか。

悩むところだ。塩でもいいかもしれない。


とりあえず、おまけしてもらった小ぶりのフライに、何もつけずにかぶりつく。


美味しい。

しみる。

思っていた通りの味だ。


からり、と居酒屋の扉が開いた。


パトラと、定例会議の時の女性だった。


「ア、アネッサ。さ、探したよ」


パトラが、バネッサの腕に抱きつく。

少し震えているようだった。


「まったく、どこ行ってたん……だい。心配したよ」


女性が、やれやれと隣の席に座る。


二人は、定例会議の後に飛び出していったバネッサを探していたようだ。


目一杯走った後に、ハルアキの車に乗せてもらい、配送にも付き合った。

結構な時間が経っている。


心配をかけてしまったようだ。

申し訳なくなる。


アジフライを噛みしめながら、バネッサは思った。


だが、あえて謝らない。


女性は、オリヅルと名乗った。

パトラの先輩なのだそうだ。


「まったく。あんなことで恥ずかしがらなくても」

「あんなことって、何ですか。オリヅルさん」


「アネッサ。お、お腹の虫、そそ、そんなに、は、恥ずかしくないよ」

「パトラ。お腹の虫って、何のことです?」


オリヅルが笑い出した。


「なるほどね。無かったことにするんだね。いいね!」


バネッサは、定例会議での腹の虫のことは、無かったことにすると決めていた。


「なんか美味そうだな。大将、私もアジフライ定食!」

「あ、ああ、あたしも、お、同じやつ、お願いします」

「はいよお! アジフライ二丁!」


オリヅルは、クロエ商会に所属する戦闘特化型採取師チームの副リーダーだという。


パトラの先輩で、彼女がクロエ商会に所属してから、ずっと面倒を見てきたらしい。


見た目のタイプは違う。

だが、やり取りを見ていると、まるで姉妹のようだった。


「ア、アネッサ。これ、あ、明日の、へ、編成」


パトラが、小さな紙を渡してきた。

明日からの盗掘者捜索チームの編成だ。


ああ、そうか。


明日から一週間、捜索のために山に入らなければならない。


盗掘されていない採掘場は一度見ておきたいとも思っていた。

そこは前向きに考えよう。


まだ、三週間もあるのだ。


レモンという人がリーダーになるらしい。

会議室にいたおじいちゃんの誰かなのだろうか。


あとは、テツとパトラとアネッサ。

四人パーティだった。


「お、往復で、む、む、六日くらいだって」

「え。結構、短期ルートですね」

「アネッサが初回ということで、軽めのルートにしてくれたんじゃねえかな」

「はあ。ホリイさんの気配り、ありがたいですねえ」


「お待ちどう様、っと!」


オリヅルとパトラのアジフライ定食が、カウンターに置かれた。


「うんまっ。大将、これうまいよ!」

「お、おいしい。せ、先輩、ソース取って」


三人はしばらく、アジフライをわいわい楽しんだ。



その中で、バネッサは頭の片隅で考える。


盗掘者がこれほど捜査網から逃れ続けていることを考えると、捜索計画そのものに欠陥がある可能性が高い。


本音を言えば、ホリイと詳しく話をしたい。

だが、外部から来た、それも新人扱いの女性採取師である自分が、どう話をつけたものか。


ともあれ、短期ルートでよかった。

テツとパトラがいるなら、安心だ。


◆ ◆ ◆


テツは自室でセンサーを磨きながら、アネッサの腹の音を思い出し、くすりと笑った。


この商会には、二か月前から支援活動で参加している。


つまり、クロエ商会から最初に派遣された採取師チームの一人だ。


同期のパトラも同様である。

彼女とは、見習いの頃からよく組まされていた。


参加した当初から、定例会議は不穏だった。


聞くところによると、当初は捕縛に向けて活気があったそうだ。

ただ、ハル商会は採取師の数が少ない。


成果が出ないまま空気がぴりつき始めた頃に、クロエ商会の支援チームが参加したらしい。


他の商会からの支援というもの自体、彼らにとっては気分の良いものではなかったのだろう。

自分たちのプライドもある。


テツは、歓迎ムードとは程遠い雰囲気を居心地悪く感じていた。


それでも、ひと月も経たないうちに片づくだろうと思っていた。

チーム内には、クロエ商会のトップクラスの採取師たちがいる。


テツは今回、自分とパトラに他の商圏での活動を実体験させるため、研修の意味でチームに入れられたのだと思っていた。


先輩たちに任せておけば大丈夫だろう。

そう思っていたのだが。


その四週間後。


テツは、パトラとハル商会の老採取師の三名パーティで山中を捜索中、不審な男を捕らえた。


テツが発見し、索敵する。

その後、パトラが数秒で昏倒させた。


商会に連行し、尋問する。


男は盗掘者ではあった。

しかし、今回の連続盗掘とは関係がないことが分かった。


どうやら、噂を聞きつけて、ご相伴に預かるつもりだったらしい。


盗掘の噂が、広がり始めている。

出所は分からない。


関係者には口止めしてある。

だが、酒場の愚痴などを盗み聞きされた可能性もある。


クロエはその後、支援部隊を数倍に増やした。

しかし、盗掘者はいまだにしっぽを出さない。



その後、クロエが、知り合いの商人からの紹介だという女性の採取師を連れてきた。


テツとパトラの、一つ後輩らしい。


採取師は、アネッサと名乗った。


だが、テツはすでに、その名前を知っていた。

クロエが事前に、テツとパトラへ命じていたのだ。


「現在分かっていることについては、今度連れてくるアネッサが聞(・)い(・)て(・)く(・)る(・)ま(・)で(・)、何も答えないように」

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