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第19話

「え。何のことですかね。あっちからは来たような」


バネッサは曖昧に笑った。


「ああ、警戒しなくていいよ。俺も転生者だ。あんた、ハルさんとこの手伝いに来た人かい?」


「えっと、そうかも」

「俺はニック。互助会出の転生者さ。でもって、ここの店主だ」


他の客がいないせいか、ニックはバネッサの前の席に腰を下ろした。


「目の色がね。気になっちゃったからさ」

「ああ、どうも。バ……アネッサです。転生者です」

「もう何年?」

「は?」

「転生してきて」


どう言ったものか。


久遠であるバネッサは、一瞬考えた。

今は任務中だ。

馬鹿正直に、八十年以上前です、とは言えるはずがない。

適当に答えるしかない。


「えっと、かれこれ十年くらいかなあ」

「ええ。じゃあ、子供の時じゃないか。大変だったろう」

「まあ……そうですね」


「互助会系? 商人系?」


何でこの人、色々聞いてくるのだろう。

バネッサは困惑していた。


「し、商人です。この地域じゃなくて、他所からハルさんの手伝いに来ました」


ニックは、微笑んだまま頷いた。


「そっか。ごめんね、引き留めて。お代は九百円です」

「……はあ」


バネッサはお札を出し、お釣りを受け取った。


からから、と引き戸を開けて店を出る。

閉める瞬間、隙間から、ニックが手を振っているのが見えた。


何だったんだろう。


こっちの互助会出身の人、どうしてこんなにフレンドリーなの?


◆ ◆ ◆


互助会は、商人ギルドとは別の団体である。


転生者の保護と社会復帰を目的とした、ボランティア団体に近い組織だ。


そのため、商人ギルドよりも教育方面に強く、保護も手厚い。

保護された転生者は、主に都市部の一般環境に送られる。


一方で、商人に保護され、商人見習い、または採取師見習いとなった転生者は、辛い修業時代を過ごすことが多い。


そのため、商人や採取師の間には、互助会出身者への羨ましさからくる蔑みの言葉がある。


──互助会出身は、生っちょろくて甘えているよな。

──美味しいところだけ持っていく、エリート連中だよな。

──あっちの指導はお優しいらしいぜ。羨ましくもねえけどな。


そういう雰囲気は、伝わるものだ。


だから互助会出身の転生者は、自分から互助会出身だとは滅多に言わない。

その場の空気が悪くなるからである。


事実、バネッサは長い人生を生きているが、自分から互助会出身だと堂々と名乗る転生者には、ほとんど出会ったことがなかった。


◆ ◆ ◆


バネッサは、先ほどのことを考えながら歩いていた。


東北互助会が特殊なのか。

それとも、この土地の雰囲気なのか。

あるいは、先ほどの彼、ニック個人の性質なのか。


ふと、足が止まった。


もしこれが地域差であるならば、頭に入れておかなければならないことなのではないか。


ただでさえ、情報が少ない状況だ。

他の土地の目で調べても、無理と無駄が出る。


からからから。


「すみませーん」


バネッサは、再びうどん屋に入った。


「っらっしゃーい」


先ほどと同じ挨拶。


バネッサが座っていたテーブルは、すでに綺麗に拭かれていた。


「先ほど天ぷらうどんを食べた者ですが、お伺いしたいことがあります」


◆ ◆ ◆


「何だ、そんなことかい」


バネッサは、自分の地域の話をした。

そして、ニックの対応があまりに違うことに疑問を感じたのだと、率直に伝えた。


「この町はね、互助会出身者の方が多く住んでるんだよ。数が多いから、出身を言ってもトラブルになりにくい土地柄なんだ」


「どうして、ここは互助会出身の方が多いのですか?」

「詳しくは知らないけど、まだここが村だった頃からだって聞いたことがあるよ。当時の村長とかが、互助会の人と仲良かったから、とかなのかもね」

「ふんふん」

「まあ、昔は人が少なくなって、村が無くなるみたいな話もあったらしいし。お互い、ウィンウィンだったんじゃないかな」


なるほど。

あくまで、この町特有の雰囲気なのだ。


「ちなみに、どのくらい転生者がいるのでしょう」

「寂れた漁村だし、若い子だと生活に慣れたらすぐ都会に行くからね。町の……そうだな、一割くらいかな。ごめん、詳しい人数は分からないんだ」

「え、そうなんですか」

「この町の転生者同士で、何か組織みたいなことをしてるわけじゃないんだ。せいぜいたまに集まって酒を飲むくらいかな。僕なんかは一般人の友人の方が多いくらいだし」

「しっかり町に馴染んでいるのですねー」


気になっていたもう一点について質問をする。


「ハル社長とはお知り合いなんですか?」

「うん。一時期、消防団に入ってたころ一緒だったんだ」

「へええ、消防団」


消防団。


その単語が、少し意外だった。


転生者社会ではなく、この町の中にいるハル社長の姿が、ふと浮かんだ。


「商人になるから辞めるって聞いた時は驚いたさ。ハルさん、互助会出身だから色々大変だろうなって、みんな心配してた」

「えっ?」

「まあ、あの商会だから大丈夫だったんだね。あの商会は昔から町にも協力的でさ。今でもお祭りの時とか、よくお金を出してもらってるよ」

「な、なるほど。では、商人と互助会が仲が良い町なんですね」

「そそ。なので、フレンドリーに声をかけちゃった。びっくりさせてごめんよ」


バネッサは礼を言って、ニックの店を出た。


ハル社長は、互助会出身だった。


そしてこの町では、それは隠すようなことではない。


それは、頭のノートに入れておこう。

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