第18話
週末、バネッサは装備品の整備をし、保存食の追加を作った。
来週以降、長期の探索業務になる可能性がある。
念のためだ。
保存食を作り終え、一息つく。
部屋には、布団と自分の荷物しかない。
やることが、特に思いつかない。
暇を持て余しても仕方ないので、散歩に出ることにした。
パトラも誘おうかと思い、隣の部屋をノックしてみたが、不在のようだった。
天気は薄曇り。
直射日光ではないので助かる。
潮風も心地よい。
今日は、商店街があると聞いた方へ行ってみよう。
歩きながら、この地に来てからのことを考える。
まだ一週間しか経っていない。
だが、自分に見えているものは少ない。
今回の盗掘者は、腕が立つ。
判断も良い。
採取師であるバネッサは、一般社会から見れば、盗掘者のようなものだ。
他者の目を逃れ、鉱石を掘り、痕跡を消し、静かに立ち去る。
だから、盗掘者の考えることは、採取師であれば想像できるはずだった。
だが、ここまで追跡の手から逃れ続ける手法が思いつかない。
現在、多数の採取師が捜索しているにもかかわらず、何も発見できていない。
それは、不自然すぎる。
全員が無能ということはないだろう。
クロエが先行して派遣している採取師たちが、無能だとも思えない。
今は、想像に留める。
それでもバネッサは、今回の盗掘には内部の人間が関わっているのではないか、と考えていた。
しかし、今まで出会った人間の中に、動機がしっくりくる者はいない。
もちろん、まだ見えていない裏の事情があるのかもしれない。
他にも、知らない誰かがいるのかもしれない。
……いけない、いけない。
すぐ、色々と考えすぎてしまう。
情報が少なすぎる状態で、これ以上考えると先入観が生まれる。
それは危険だ。
商店街、といっても、自然に店舗が集まったような通りだった。
アーケードも何もない。
最寄り駅も遠い辺鄙な場所だが、飲食店や青果店など、必要最低限の店は一通り揃っているようだった。
あとはコンビニさえあれば、と少し残念に思う。
うどん屋は、さすがに無いだろう。
そう思いながら歩いていたら、うどん屋の看板を見つけてしまった。
バネッサは、太陽の高さを見る。
時間は、全然大丈夫だ。
興味津々で、入店してみる。
からからから、と引き戸を開けた。
「っらっしゃーい! お好きな席へどうぞ!」
威勢の良い男性の声。
奥の厨房から、良い出汁の匂いがする。
店内に、他の客はいない。
厨房内が見やすい席はないかと探したが、あまり良い席がなかった。
仕方なく、入口に近いテーブル席に座る。
水はセルフサービスのようだ。
壁に、お品書き。
ここは、天ぷらうどん一択だろう。
「天ぷらうどん、一つお願いします!」
「はいよ、天ぷら一丁!」
厨房はどうせ見えない。
バネッサは目を閉じた。
店主だろうか。
男性の足音。
ガスコンロの音。
冷蔵庫を開け閉めする音。
そして、しゃわーっと響く、天ぷらを揚げる音。
しばらくすると、油の匂いが漂ってきた。
油は傷んでいない。
うん。
出汁の匂いは、バネッサのものとは違う。
素材を想像する。
楽しい。
「お待ちどうさま、っと」
運ばれてきた天ぷらうどんは、見た目が良かった。
海老天と、小さなかき揚げ。
豪華だ。
「いただきます!」
バネッサは両手を合わせ、声に出して言った。
卓上の割り箸を手に取る。
あ、こちらの店はレンゲを使うのですね。
味の方は、バネッサの好みだった。
ただ、うちの店の方が美味しい。
そんなことを思いながらも、完食してしまった。
「ごちそうさまでした。美味しかったです」
「そりゃよかった」
声の近さに驚いた。
先ほどうどんを持ってきてくれた、白い調理服の男性が、いつの間にか厨房の入口の柱に寄りかかっていた。
腕を組んで、こちらを見ている。
食べる様子を見られていたのだろうか。
少し恥ずかしくなる。
「あ、あの。じゃあ、お会計を」
「お嬢さん、あんた、あっちから来た人かい?」
あっちから来た人。
それは、転生者同士で使われる隠語だ。
つまり、あなたは転生者ですか、と聞かれている。
バネッサは思わず、男性の顔を見た。
日本人離れした顔立ち。
金髪。
碧眼。
男性は、穏やかにこちらを見ていた。




