第15話
前回同様、ホリイが森の入口で待っていてくれた。
車でハルの商館まで送ってもらう。
オフィスに入ると、バネッサは今回の調査報告をまとめ、提出した。
そしてホリイに、次は発見が最初期の現場を見てみたい、と伝える。
だが。
「いや、アネッサ。この地域の雰囲気は、もう分かっただろう。そろそろ本番の、盗掘者の捜索活動に入ってほしい」
バネッサは、言葉に詰まった。
確かに、本件の目的は盗掘者の捜索、および捕獲である。
現在、百名を超える採取師が、この商圏をパトロールしている。
今回バネッサは、書類上ではその一員として呼ばれているのだ。
しかし、バネッサはこの二か所の現場を見て、盗掘者の能力は相当高いと判断していた。
ハルの商圏は広い。
むやみやたらに探しても、網の目をすり抜けられる気がしてならない。
そして何より。
なぜクロエが、この地にバネッサを呼んだのか。
その理由が、分からなくなっていた。
盗掘の発覚は三か月前。
クロエは二か月前から採取師をこの地に派遣し、捜索を続けている。
それなのに、なぜこのタイミングで自分なのか。
クロエは、別のアプローチで解決することを望んでいるのではないか。
しかし、バネッサは表向き、採取師五年目の新人ということになっている。
動きが制限されることは覚悟していた。
それでも、今後どうしたものか。
「それと、明日は定期報告会なんだ。初めてだろうから、参加してくれ」
ホリイが、少し憂鬱そうに言った。
「定期報告会、とは何ですか」
「週末に行う、現在の捜索状況なんかを情報共有する会議みたいなもんだ。今回参加してくれている、他の商会の採取師も集まる」
ホリイは疲れたように肩を回した。
「といっても、遠方に出ているチームも多いから、半分も集まらないけどな」
「分かりました」
バネッサはそう告げ、事務室を出た。
ホリイは、相当疲れが溜まっているようだった。
無理もない。
自分が所属する商圏を、三か月以上、じわじわと削られているのだ。
しかも、彼は採取師の頭目である。
ハルは社長だが、採取師ではない。
つまりホリイは、本件の現場責任者なのだ。
いやだなあ。
私、そんな立場、絶対やりたくない。
◆ ◆ ◆
ふと思いつき、バネッサはナカイさんの部屋へ向かった。
ナカイさんは、にこにこと迎えてくれた。
「アネッサちゃん、ここは慣れた? って言っても、山ばっかり行ってるから、ここに慣れるわけないか」
「いえ。でも、ホリイさんが良くしてくれていますし、大丈夫ですよ、ナカイさん」
「そろそろ、ナカイさんじゃなくて、えっちゃんって呼んでよ。落ち着かなくて」
「はい。じゃあ、えっちゃん。いくつか教えてほしいことがあるのです」
「なんでも聞いて。知ってることは教えてあげる」
バネッサはまず、現在ハル商会に所属している採取師の人数を聞いた。
二十名から四十名ほどだという。
老齢などで半引退している者も含めて、そのくらいらしい。
えっちゃんは、商会の実務にはあまり深く関わっていないようだった。
次に、今回の盗掘者捜索に参加している、他の商会から来ている採取師の数を聞く。
こちらは、えっちゃんがPCを確認しながら答えてくれた。
九十四名。
宿舎の手配をしている関係で、正確に把握しているのだという。
「九十四人とは、また大人数ですね。どこに住まわれているのです?」
「アネッサちゃんたちのアパートとは反対方向にね、昔、団地だったところがあったの。そこを格安で買ったのよ」
「採取師のお住まいのために?」
「そうそう。昔はたくさん、採取師さんがいたからね」
「……昔、ですか」
「で、ハルさんに代替わりして、いっぱい辞めちゃったのよね」
「そうなんですね」
えっちゃんが何か気が付いたように言葉を付け加えた。
「ああ、ハルさんがどうこうというより、先代のアキさんが慕われててね」
「アキさんというのですね。先代社長は」
「そうそう。私も大好きだったわ。この前話した、命の恩人。すごい美人だった」
「女性だったのですか?」
「そうよお。ハルさんのお嫁さんだったの」




