第14話
翌々日。
バネッサは、直近で被害に遭った場所の、一つ前の現場に来ていた。
あいにくの雨だった。
撤退するほどではない。
だが、手掛かりを発見できる確率は確実に下がる。
前回同様、バネッサとパトラが盗掘された掘削現場の調査を行い、テツが周辺警戒にあたる。
掘削の様子は、前回と変わらず荒っぽい。
足元の痕跡は、雨の影響もあって断言はできない。
それでも、やはり丁寧に消されているように見えた。
今日は掘削現場の大半を確認できた。
だが、新しい発見は特になかった。
今夜は雨天でもあるため、盗掘された洞穴で夜を過ごすことにした。
すでに、証拠らしい証拠が残っていないことは確認している。
多少現場を荒らしても、怒られないだろう。
洞穴の入口から、雨の音が聞こえる。
夜になって、雨脚はさらに強くなってきた。
「アネッサ、れ、例のやつ出して」
「あ、隠蔽ですね。はいはい、待っててください」
パトラは固形燃料で湯を沸かそうとしていた。
雨で薪が手に入らない時のための、固形燃料である。
火があると、落ち着くのだろう。
長身で大人っぽく見える彼女の中身は、どこか少女のようだった。
「この炎じゃ、マシュマロは炙れませんね」
そう言うと、パトラが少し残念そうに笑った。
その時、テツが防水袋を差し出してきた。
「これ、使えよ」
中には、非常用の焚火用燃料が入っていた。
小さく割られた、乾いた薪だ。
「て、テツ。い、いいの?」
「明日帰還だし。パトラも持ってるだろ」
「あ、ありがとう、テツ」
「警戒、行ってくる」
テツは雨具のフードをかぶり、洞穴から出ていった。
バネッサは、テツから受け取った小さな薪を組む。
固形燃料の炎を、細く削った薪の破片へ移す。
そこから、少しずつ火を育てていった。
やがて、小さな焚火が洞穴の中に生まれた。
「テツさん、優しいですね」
「あ、あれ、か、格好つけてるの」
「え。どういうことですか?」
「アネッサに、か、格好いいところ、み、見せたいんだと思う」
「そんなことないでしょう」
「テ、テツは、そういうやつ」
パトラは、少しだけ得意げに言った。
バネッサはマシュマロを火に近づける。
表面がゆっくりと色づいていく。
二人はそれにかぶりつき、にこにこと顔を見合わせた。
「……テ、テツは、ま、魔道具オタクなんだよ」
「オタクなんですか?」
「ま、魔道具の話をする時、す、すごく早口で、こ、言葉が多くなるの」
テツの裏話で、二人はくすくすと笑い合った。
温かいお茶を飲む。
雨の音が、洞穴の外で続いている。
ふと、パトラが思い出したように言った。
「あ、あのさ、アネッサ。あまり関係ないかもだけど」
「なんですか?」
「この穴を掘った人、わ、私より身長、ひ、低いかも」
パトラは立ち上がり、洞穴の少し奥へ進んだ。
頭が天井に当たるのか、膝を曲げている。
バネッサは考えた。
可能性はある。
ただし、掘り進む時の姿勢の問題もあるため、決定打にはならない。
それでも、バネッサは気づいた。
自分は、地面ばかりを見ていた。
足跡。
削られた石。
消された痕跡。
運び出された鉱石。
そこに意識を取られすぎて、空間全体を見る視点が少し狭くなっていた。
そして、パトラが自分なりに考えて調べてくれていることが、心強かった。
嬉しくもあった。
バネッサは本心から言った。
「いい着眼点だと思います。互いの頭のノートに、それ、入れておきましょう」
パトラは少し驚いた顔をしたあと、嬉しそうに頷いた。
◆ ◆ ◆
翌日も、新しいことはほとんど分からなかった。
雨が上がっていたため、採掘場の調査を終えたバネッサは、時間が許す限り周囲を調べた。
山道を下りながら、バネッサは考える。
今回の盗掘者のイメージ。
その動き。
その手順。
正直、荒っぽい。
だが、腕が良すぎる。
目もいい。
判断力もある。
今回の盗掘場は、完全には採り尽くされていなかった。
移動に時間がかかる場所は、無視している。
的確に掘る場所を決める。
周囲を警戒する。
荒っぽく岩壁を割る。
砕いた岩石から鉱石を掘り出す。
足跡など、最低限の痕跡を消す。
見つからないよう、鉱石を運び出す。
それを、十二回も成功させている。
この地域への経験値が、上がっているからなのだろうか。
それとも。
最初から、この山をよく知っているのか。




