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第12話

目的地である、最新の盗掘現場に到着した。


バネッサはテツに、周辺警戒を指示する。

近くに人や危険生物が近づいてこないかを見てもらうためだ。


パトラには、今夜の野営準備をお願いした。


日没までは、まだ少し時間がある。

バネッサは、一番近い掘削跡を調査することにした。


道中は難所続きで、思ったより時間がかかってしまった。

それでも、到着後すぐに掘削の跡を観察する。


相当、腕力のある盗掘者のようだった。


足元に、掘削で削られた大きな岩石が落ちている。

使われたのは、かなり大きなタガネだろうか。

あるいは、つるはしの類かもしれない。


だいぶ大味な作業、という印象を受けた。


足跡はない。


ないが、足跡を消した痕跡はある。


大雑把な岩の掘り方にしては、気が利きすぎている。


掘った人物と、足跡を消した人物は違う。

バネッサは、そう感じた。


しばらく四つん這いになり、地面をあちこち調べてみた。

だが、これといった収穫はない。


太陽を見る。


野営地に戻るころには、日が沈むだろう。

今日の調査は、ここまでにした方がいい。


バネッサはセンサーで、パトラの位置を確認した。

野営地の場所が分かる。


上から見て、気づいたことがあった。


どうやら自分は、かなり面倒なルートでここまで来たらしい。


往路とは違う道を選び、斜面を下る。

少し遠回りではあるが、こちらの方がなだらかだった。


このルートなら、遠回りでも、早く上ることができただろう。


その時だった。


……奇妙な匂いがした。


バネッサは足を止める。


何だろう。


周囲を調べてみるが、特に異常は見られない。

それでも、微かに、確かに何かの匂いがした。


バネッサの日常には関係のない匂いだ。


けれど、どこかで嗅いだ記憶がある。


転生前ではない。

もっと近い。

七、八十年くらい前に――。


いや、思い出せない。


数歩戻り、風向きをもう一度調べる。

だが、何も見つからなかった。


掘削現場とは距離もある。

今回の件とは関係ないかもしれない。


それでも、バネッサはその匂いを、頭のノートに書き留めておいた。


◆ ◆ ◆


野営地に着いた。


周囲から死角になる位置に、焚火の準備がしてある。


バネッサは、別に夜は保存食でも大丈夫だった。

だが、パトラは温かいものが食べたいのだろう。


それに、バネッサもマシュマロを持ってきている。

食後に、皆で焼いて食べよう。


「パトラ、火をつけましょう。私、隠蔽装置を持っていますから」

「ほ、本当? じゃ、じゃあ、火をつけるね」


バネッサの持つ隠蔽装置は、焚火の炎を外に漏らさない。


普通、隠蔽装置は自分の姿を消すために使うものだ。

しかしバネッサは、趣味の焚火のためだけに調律して使っている。


この魔道具を売った商人は、バネッサの調律要望に頭を抱えていた。

この高性能な魔道具を、そんな用途にだけ使うなど冒涜だ、とまで言われた。


だが、そのために購入したのだから仕方ない。


しばらくして、周辺警戒に出ていたテツが戻ってきた。


「リーダー。異常なし、だ」

「テツさん、お疲れ様です。パトラのスープがありますよ」

「ああ。いただこう」


◆ ◆ ◆


テツはスープをすすりながら、バネッサとパトラを見ていた。


先に食べ終えていた二人は、焚火でマシュマロを焼いている。


仲が良さそうだ。


大きな木の根元。

小さな焚火。

その周囲に、甘い匂いが漂っている。


ぱちぱちと、木が燃える静かな音がした。


テツは、こういう時間が嫌いではない。


嫌いではないのだが。


先ほどから、内心ではかなり動揺していた。


焚火の横に座るアネッサの胸元。

そこに光る魔道具。


あれは、レアもののシグマ先生作、シグマ三式複合光学隠蔽装置ではないだろうか。


たしか、三十年ほど前のモデル。

状態の良いものは少なく、かなり高価なはずだ。


しかも属性相性が厳しく、使える人も限られると、どこかで読んだ覚えがある。


何なんだ、このアネッサという採取師は。


実は、とんでもないお嬢様なのか。


いいなあ。


ちょっと、触らせてくれないだろうか。

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