第11話
翌日の早朝。
着替えを済ませ、そろそろ出ようかと考えていると、扉を叩く音がした。
開けると、パトラが立っていた。
「い、一緒に、行かない?」
パトラが、一緒に出ようと誘ってくれた。
バネッサは少し嬉しくなって、頷いた。
二人で、ハルの商館の駐車場へ向かう。
駐車場では、ホリイが大きな車の運転席から手を挙げていた。
テツは、もう助手席に座っている。
バネッサとパトラは、後部座席に並んで座った。
「では、出発するぞ」
車が静かに発進した。
まだ日の出前だった。
空には、紫の雲が浮かんでいる。
書類上、アネッサはテツとパトラより少し後輩ということになっている。
だが、テツとパトラは戦闘特化だ。
今回は案内と護衛に徹するということで、現場での判断はバネッサが担うことになった。
つまり、バネッサがこの小さなパーティのリーダーである。
ハルの商圏は広い。
目的の鉱山の入口までは、車で三時間ほどかかるらしい。
途中、コンビニに寄ってもらい、バネッサはお菓子を買った。
後部座席で、パトラと二人、少しずつ交換しながら食べる。
味の感想を小声で言い合い、くすくす笑った。
テツは、ずっとスマホをいじっている。
聞かれたことには答えるが、言葉は短い。
ホリイは運転しながら、三人の若い助っ人たちを少し気にしていた。
大丈夫なのだろうか。
普通、山に入るパーティを組んだなら、もう少し仲間との距離を詰めるものだ。
特に、リーダーであるアネッサとテツの距離感が気にかかる。
しかし、所属商館も違う。
ホリイとしても、口を出しづらかった。
◆ ◆ ◆
目的の鉱山がある山道の入口に到着した。
全員で、装備の最終確認を行う。
その時、バネッサは、テツが自分の持っている魔道具を凝視していることに気づいた。
センサー。
正式には、探索装置。
バネッサのセンサーは高性能ではあるが、問題になるようなものではないはずだ。
けれど、テツの様子が少しおかしい。
まるで、センサーを鑑定でもしているような目だった。
「……なんでしょう、テツさん」
「それ、四代目マグナ先生の三十年くらい前のモデル、だよな」
「ええ。確か、そうだったような。何か?」
「いや、な、何でもない」
何だろう。
すごく早口だった。
まあ、どうでもいいか。
バネッサは気を取り直し、二人に声をかけた。
「では、山に入りましょうか」
山道に沿って登り、目的地に一番近い地点まで進む。
そこからは、山道を外れて森の中へ入る必要があった。
森に入ると、全員が無言になった。
ここからは、人目を避けての行動となる。
前衛はテツ。
後衛はパトラ。
バネッサはその間を歩き、センサーで周囲を監視する役だ。
木と土の匂いの中、三人は静かな森を黙々と進んだ。
テツは、すでに何度かここに来ているらしい。
歩調に迷いがない。
時折、木々の間から海が見えた。
だいぶ標高が上がってきている。
太陽が南中するころ、大岩の陰で小休止を取った。
全員、保存食を口にする。
地方が違うと、保存食も変わる。
パトラがバネッサの保存食を見て、少し味見させてほしいと言ってきた。
「おすすめは、しませんよ」
そう断ったのだが、パトラが悲しそうな顔をする。
仕方なく、少しだけちぎって分けてあげた。
ひどい味のはずだった。
だが、パトラは顔をしかめながらも、なんとか飲み込んだ。
だから言ったのに。
鳥の声がする。
目標地点には、夕方になる前に到着するだろう。
テツは地図を確認しながら水筒の水を飲んでいた。
だが、ときおり、ちらちらとバネッサのセンサーを見ている気がする。
何か、気になる点でもあるのだろうか。




