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第10話

歓迎会が開かれるという、漁師飯を出す居酒屋に到着した。


店員に案内され、奥の座敷へ通される。


そこではすでに、ハルが上座で生ビールを飲んでいた。

バネッサの歓迎会のはずだが、主役を待たずに始めているらしい。


「嬢ちゃん。遅かったな。まあ、そこに座れよ」


時間通りのはずだった。


しかし、バネッサはぺこぺこと頭を下げながら席につき、烏龍茶を頼んだ。


「酒、飲まねえのかよ」


ハルに突っ込まれたが、バネッサは笑ってごまかした。


卓上には、刺身の盛り合わせと、焼き魚と、貝の味噌汁が並んでいた。

バネッサは緊張しながらも、貝の味噌汁をひと口飲んで、少しだけ目を丸くした。

出汁が、強い。


座敷には、まだ顔を知らない三人がいた。


乾杯のあと、それぞれ自己紹介をする。


少し疲れが見える中年の男性は、ホリイと名乗った。

しっかりした身体つきではあるが、足を悪くしており、戦闘は難しいらしい。

現在は採取師たちの頭目として働いているという。


若手の男性は、テツ。


二十代前半。

戦闘特化だろうか。


ただ、ハンマーを握る手ではない。

目つきからすると、ナイフ使いかもしれない。


クロエ商会から、今回の件の調査の手伝いに来ているそうだ。

護衛、諜報、探索といった業務が主だと、言葉少なに言った。


その隣の女性は、パトラ。


こちらも、戦闘特化の匂いがする。

座っている姿勢が良い。

格闘術を使うのかもしれない。


豹のような印象の美人だった。


テツの同期で、彼と同じくクロエ商会から手伝いに来たらしい。

見た目に反して、少し恥ずかしがり屋のようだった。

少しどもりながら、挨拶をする。


テツとパトラは、二か月前にクロエ商会から命じられて現地入りしたそうだ。


酒が回る前に、とホリイが明日以降の話をまとめた。


「アネッサが現場を見たいとのことなので、先日被害が発覚したばかりの鉱山に行ってもらおうと思う。テツとパトラが案内する」


「ありがとうございます」

「無理をすれば日帰りもできる距離ではあるが、一晩、山で寝るか?」

「そうですね。見落としがあると怖いですし」


一泊程度なら、チーム内で細かな荷物分担をする必要もないだろう。


大まかな方針。

役割分担。

明日の集合時間。


必要なことだけを決めていく。


採取師は朝が早い。

酒が好きな者でも、山に入る前の日は深酒をしない。


採取師ではないハルだけが、まだ飲み足りないと我儘を言った。


だが、ホリイが三人に向けて、いいから先に帰れ、とハンドサインを出す。


バネッサたちは、それに従って店を出た。


店の前で、テツが短く言った。


「俺、こっちだから」


そして、バネッサの宿舎とは反対方向へ歩いていく。


山に入るチームなら、本来、仲間がどういう性格や性質を持っているのか、ある程度共有し合うべきだ。


だが、何となく淡白な印象がある。


これが東北グループの文化なのか。

それとも、最近の風潮なのか。


バネッサには、まだ分からなかった。


パトラの宿舎は、バネッサと同じアパートだった。

しかも、偶然にも隣同士の部屋らしい。


二人並んで、宿舎へ向かう。


「あ、あの。アネッサさん」

「アネッサでいいですよ」

「じゃ、じゃあ。アネッサ。あ、あたしも、パトラで」

「はい。パトラ、よろしくお願いします」

「あ、あたし、アネッサが来てくれて、う、嬉しい」

「はい?」

「こ、この現場、お、男の人ばかりで。ちょっと、い、嫌だったの」


今日、商会では他の採取師を見かけなかった。

おそらく、ほとんどの人員が調査に出払っていたのだろう。


だが、パトラの言い方だと、ハル商会はかなり男性が多いようだった。


「よ、よろしく、ね」

「こちらこそ。よろしくお願いします」


バネッサは、パトラともう少し話をしたいと思った。


けれど、バネッサも大概、人見知りである。


せめて近くにコンビニでもあれば、何かお菓子でも買って、一緒に食べないかと誘えたかもしれない。


しかし、焼いていないマシュマロをかじったところで侘しいだけだ。


結局、二人はアパートの廊下で別れた。


こうして、ハル商会での初日が終わった。

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