怪盗せきそろ(3)
「しんりんほぜんクラブ?」
いぶかしげなメリーさん。
「里山の下草を刈ったり、山道の安全を確保したり、そういったボランティア活動をしています。山科工科大学では間伐材を使った新たな商品開発をしているそうです」と端田さん。
「ふむ。健全そうなクラブだな」と会長。
澪さんが手を上げた。
「ちょっとよろしいでしょうか。ネットの動画に怪盗せきそろの犯行動画が上がっているのですが……」
モニターに映し出されたのは、はっぴ姿の男たちがリヤカーを引いて文化系クラブ棟の敷地に入っていく姿だった。扇子を持った音頭取りは、伝統どおりに菅笠に羊歯をさしている。全員、顔は赤い布で隠されていて表情はわからない。「ぞろりやぞろりやぞんぞろり」のかけ声で踊りまくり、門柱だけの門を通り抜けてクラブ棟の真ん前に停止する。そして、一階の庇に鉤縄を投げ上げるとするすると登っていく。まるで時代劇の泥棒みたいだ。
「家屋不法侵入だな」と府立大生がつぶやく。
工具を使ってメイルちゃん人形を土台ごとはずす。縄でしばって下のリヤカーに下ろす。扱いは丁重だ。
カメラが移動する。
「節季にてそーろー」
音頭取りが大声で宣言し、掲示板にクリアファイルから取り出した犯行声明を貼り付ける。指紋に気をつけているのか、軍手をしていてややもたついていた。
視界は元へと戻る。リヤカーは「ぞろりやぞろりやぞんぞろり」のかけ声とともに東大路を北へと走り去って行く。撮影者はあとに残って見送る。リハーサルでもしたような、統率の取れた動きだ。そしてエンド。題は「京の師走の風物詩 節季候」となっている。
「いつ消されるかわかにらない。ダウンロードしておこう」
会長が機転を効かせる。
「動画からわかったことは何かありますか」と澪さん。
「特には何も」と端田さんたち。
「はいはーい!」
「メリーさん」
「きっと彼らは忍者だと思うの。普通の人は、腕力だけで綱を登ってオーバーハングの上に出ることは無理だと思うの」
会長がしわい顔をする。
「キャラにあった発言、ありがとう。でもまあ、彼らが普段から体を鍛えているだろう事はわかった」
端田さんが手を上げた。
「森の手入れをしている人なら、可能だと思います。物の縛り方も、手際がよかったので」
「なるほど。ハッピの柄はどうかな」
誰からも意見が上がらない。
「おそらくは、ネット通販だな」とサバエ氏。
他に意見は出なかった。
府立大の三人は、森林保全クラブの部長の話を聞いてくると約束して散会となった。
マンションに戻ってしばらくすると、お向かいのかがみさんがたずねてきた。
「マジカルメイルちゃんの盗難事件、大騒ぎになってますね」
「うん。動画にもなってて、大変だったんだよー」
「それでお願いがあるのですが……」上目遣いの可愛くこびた表情を浮かべてくる。
……これは可愛い!
「美大の報道部が再現撮影をしたいと言ってるのだけど、撮影許可がとれないかなー、なんて言ってみたりして。ははは」
「撮影許可!? 多分、やっちゃった者勝ちだよ。問題を起こさなければ無問題。不安なら、文化系クラブ棟の防犯委員に同席してもらうけど」
なんのことはない、会長を机からへっぱがして連れてくるだけの話だが。
「というと、コスプレして、庇に登ったりしてもOK?」
「たぶん大丈夫。問題になったらみんなであやまろう」
「えへへ。やったあ!」
「で、その映像っていつぐらいに配信されるのかなあ」
「うーん。うまく行けば翌日の夕方のニュースとか?」
「ちょ、テレビに売るわけ? その映像」
「はい。何せ報道部なので」
かがみさんは、えへへ、と笑う。
ここで話を整理する。
テレビ局は取材をしたい。けど、大学との折衝などの時間は取りたくない。しかも、元の動画の投稿主とは連絡がつかない。そこで、美大の報道部が作った再現動画を視聴者投稿として買い取りニュースで流そう!……という密約案件らしい。
「あちゃー、大事になるなあ。会長、ヘソを曲げそう。そうだ、今の話、聞かなかったことにできない? 番組はまず、支倉かがみのミスティックムーンナイトで流す。テレビ局はそこから動画をみつけたことにする。美大の報道部に話が行って元映像を入手する。こうしたら、大学生のサークル活動ですむよね」
「う、うーん、それでいいのかな? 三店方式みたいな」
「そのかわり、特ダネもあげるから」
それで行くことになった。
夜十時。私たちは文化系クラブ棟の門の前に集まった。
「京都美大報道部」のパーカーを着た人たちが、三脚付カメラを構える。その横ではサブカメラもスタンバイする。けっこうな光量で照らされた現場に、リヤカーを引っ張ったお調子者たちが現れる。
「ぞろりやぞろりやぞんぞろり、はい」
「ぞろりやぞろりやぞんぞろり!」
「あそれ、せつきでそーろー」
「せつきでそーろー」
「ぞろりやぞろりやぞんぞろり!」
「ぞろりやぞろりやぞんぞろり!」
元々の動画よりはかなり派手になってしまった。
けどまあ、再現映像というゲバ文字の看板は随所に配置したし、誤解は招かないはずだ。
そして、庇から取り外された運ばれていくのはコスプレをしたかがみさんだ。会心の笑みである。レイヤー魂、ここに輝けり、だ。
おっと、さっそくSNSて反応が来た。和菓子屋の女将さんだ。ついに取材に出てきたのか!?
投稿の題は「楽しい学生さんたち」になっている。これは皮肉なのか本音なのか。
「はい、カットー! OK!」
美大の人たちは移動に入る。
「あの、犯行声明は?」
「あとで編集しますから、大丈夫です」と美大生。
「なんか変なのを巻き込んでしまったなあ」と「防犯」の腕章をつけたアマリ氏がぼやいた。
撮影は出町柳まで断続的に続いた。かがみさんはその間、ずっとリヤカーに横たわっている。同じポーズをとるのは大変だろう。
出町柳の駅前に着く。
リヤカーはかがみさんを載せたまま二トントラックに積み込まれる。せきそろのメンバーもトラックの中に乗り込む。そのまま東に向かってトラックは走り去る。
再現映像は完全に犯人のもくろみをはずしていた。




