旅館に巣くう怪異(4)
「話してみたまえ」
会長に促されて私は推理したことを話した。
「毛朱一竹の碑がある場所は、古墳の中腹なんです。土を盛り上げたその跡が日月二つの池。……たぶん、後世にそのように整備したのでしょう。で、古墳につきものと言えば……」
「あ、石棺の蓋だ!」と寧々さん。
「はい、そうです。でも、石棺の蓋が出てきているということは、誰かがかつて掘り返したということです」
「ふむふむ」
会長はうなずく。
「古墳には石室と羨道があります。おそらく昔、誰かが石室と羨道を修復して埋め戻したんじゃないでしょうか。その入り口は、売り払った側にあった。老人ホームの建設では重機が使われます。元々池だった土地ですから、地盤改良工事はしっかりとしているはずです。そして、旅館側の丘に続く敷地を削ることは、地崩れをおそれて普通はしません。羨道の入り口は、いまだ見つかっていないんじゃないでしょうか。けど、工事の影響が羨道を通して伝わってきた――それで石碑が揺らいだんだと思います」
女将さんが、何かに気づいた様子だ。
「そういえば、戦時中、築山の向こうに防空壕があった、て話はきいてます。それかも!」
「というと、古墳を利用した?」
「かもしれません。うちは軍部のお偉いさんも使っていたので、空襲に耐えられるようにコンクリートでしっかりと固めたと聞いています。多分、入り口は持仏堂の裏あたりかと」
「なるほど。霧島君の推理通りだとすると、その空洞を伝わって振動が響いたということになるな」
「戦後はどうしてたの? 中を埋めたりはしなかったの?」
メリーさんが素朴な疑問を投げかけた。
「さあ……」
「そういえば、お婆ちゃんが防空壕に掛け軸とか避難させたって言ってたよね。円山応挙とか池大雅とか」と寧々さん。
「はあ。そんなことも言うてはったねえ。ボケはってからやけど」と女将さん。
「尾形乾山とか野々村仁清とか本阿弥光悦とか……」
「昔のこっちゃし、もう売り払ったんとちゃいますかぁ」
「粟田口なんとかさんとか、来国光の刀もあったって言うたはったよね」
「まさか防空壕に隠した?」
女将は事の重大さに気づいたようだった。
「これは、お宝の匂いがします! いますぐ発掘すべきでーす!」
メリーさんがざっくりと結論づけた。
その後の展開は早かった。
女将さんは、知り合いの建築会社に頼んで重機をいれてもらった。
石板類をとりのぞいて築山の発掘にとりかかる。
もちろん、学術上の「発掘」ではなく、旅館によるただの庭整備だ。学者や行政に知られたらやつかいなことになる。
石壁と、間をうめたコンクリートの塊が出てきた。すなわち「遺跡」ではなく近代文明以降の構造物だ。壊そうが埋めようが所有者の勝手だ。
掘削機のついた油圧ショベルを投入して、慎重に削っていく。
ついに開かずの防空壕が開いた。
そこは、和室を模したコンクリート製の部屋になっていて、様々な骨董品が桐箱に収まって山積みになっていたという。
女将さんはじめみんなが、鳴動という奇瑞を示した「毛朱一竹塚」に感謝したのだった。
もちろん、ミステリー研には過分の謝礼が支払われたのでした。