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鵺の鳴く夜は怖い(2)

 その時、ビタースイートテイストでトロピカルな曲がかかりはじめた。

 かがみさんがすっとんできて土下座した。

「配信が始まっちゃいました! お願いです。協力してください」

「え? 何、何?」

「さっきのやりとり、少しネットに流れちゃってました! マジお願いっす。一生のお願いっす。配信に出てください!」

 涙目だ。

「何でもしますから!」

「……と言って、絶対にしないよね」

「いや、その、限界はあるっすけど」

 にへらっ、とこびた笑みをうかべる。

……マジカルメイルそのものの作り笑いだ。なりきりの再現度が高すぎる!

「私、いやだよ。こんな格好だし」

 きっぱりとことわる。何せ、Tシャツにすり切れたシーンズという全くの普段着なのだ。

「わたしは、出てもいいかな。約束は絶対だからね!」とメリーさん。

 というわけで、メリーさんは、急遽ネットテレビに出演することになった。

 オープニングの短い曲がフェードアウトする。

 二人はそれぞれ気絶したピコ太と動かない市松人形を抱えてソファーにすわる。

「はい、お騒がせしました。今日の飛び入りゲスト、ご近所のメリーさんと、その愛娘(まなむすめ)……」

(みやび)でーす」

 メリーさんは、手で市松人形の手を振っている。いつものノリが戻ってきたようだ。

「で、その銃は?」

「ボルカニック・リピーティング・ピストル。わたしの相棒でーす」

「でも、魔法少女には通用しないっすよ。絶対防壁があるんで」

……そういえば、そういう設定、あったわ。物理攻撃は一切通らない魔法のバリア。

 ちなみに、マジカルメイルにホウキを持たせなかったのは正解だった。あのホウキは、火炎放射器にも青竜刀にもガトリング砲にもなるという万能兵器だ。いくら怪異のメリーさんでも、あのホウキを手にしたマジカルメイルに太刀打ちするのは困難だろう。

 そして、マジカルメイルには、一般人に絶対に正体を知られてはいけない、という鉄の掟がある。私がいたことで、メイルは二つの選択肢を与えられた。私を友達にするか、それとも、妖怪ごと消し去るか。

 おそらく、かがみさんはマジカルメイルの亡霊に取り憑かれたレイヤー。そして、コントロールはあのレッサーパンダ……

 頭か痛くなってきた。アニメの設定を思い出しつつ、現実の問題を解決しなくてはならないのだ。

 まずは、私たちを殺さないようにお願いしよう。何でもすると言ったのだから。

 そんな私の苦悩を知りもせず、メリーさんは今まで経験した色んな怪異譚を得意げに語っている。ちょっとヤバいかな、と思うところは、微妙にぼかしてやり過ごしている。巽団地の話とか、カンパリ入道の話なんてのは、キワキワもいいところだ。そして、かがみさんも深追いはしない。ひょっとしたらこの二人は、いいコンビなのかもしれない。

「今までで一番難儀したのはなんすか?」

「バックルーム事件かな」

「というと、プログラムに仕掛けられた裏口?」

「じゃなくて、無限に続く黄色い部屋の世界。探し人は見つけたんだけど、結局、その世界から出られなくなったの」

「どうやって脱出したんっすか」

「この銃で天井の蛍光灯を撃ちまくったのよ。そしたら管理人が現れて、土下座して謝ったの。『蛍光灯も最近じゃ高いんです。お願いですから、帰って下さい、何でもしますから』ってね」

 ちくちく言葉だ。かがみさんの頬が引きつる。

「その他には何か?」

「イチゴタルト事件。これは難事件だったの。日本にイチロクタルトというものがあると知らなかったから……」

 ここで、ビタースイートテイストでトロピカルな曲が流れ始めた。

……こういうの、タイマーでやってるんだ。

「おっと、時間っす。鴨川のほとりから深夜のささやきをおとどけする支倉かがみのミスティックムーンナイト、今夜のゲストは、ご近所のメリーさんでしたー!」

 わー、パチパチパチ。

 放送を終えたかがみさんは放心している。

「ふう。今夜の放送も無事穴を開けなくてすみましたー」

「って、こんな時間に生放送でやってるんだ」

「この時間は穴場なんすよ。でも、穴開けたり放送事故起こしたら、すぐ別の人にとられちゃうんっすよねー」

……ネットテレビの世界も厳しいようだ。

「で。私から二人へのお願いなんだけど。これからは仲良くしてね。ピストルで撃つとか、ホウキでぶん殴るとかは禁止。はい、握手~」

 二人は、照れながら手を取り合ったのだった。


 配信から一週間後。

 深夜にチャイムが鳴った。

「はいはい」

 確認してから扉を開けると、かがみさんが泣きながら立っていた。

「ピコ太が死んだっす。もうどうしていいかわからないっす」


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