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異世界転生した九十八歳のおばあちゃんです。転生先で再びおじいさんと出会いました。  作者: 丹羽坂飛鳥


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守護の指輪

 守護の指輪。

 RPGなら初期の方で出てきて、防御力がちょっとだけ上がる効果があると思う。


 太一郎さんが買いに行くと言っていた魔道具店に入ったけれど、店内には所狭しと訳のわからないアイテムが置かれていた。

 変な像に、木の板、謎素材の円盤に、瓶に入ったカラフルな液体の山積み。

 ガラスのショーケースの中には貴金属などの、ちょっとよさそうなものが置かれている。風属性の魔石がついた疾風のネックレスや、炎の魔石が時折光るブレスレットなどもあった。


「す、すごい……っゲーマー垂涎のアイテムの宝庫です……!」


 店内に並べられた商品の全てが、道具屋の一覧に並べられている『名前だけしか知らないアイテム』の実物だった。

 ポーションもカゴに山盛りに置かれていて、傷の治癒用、魔力回復用、さまざまな用途が書かれている。

 眺めているだけで家に帰るのを忘れそうなくらい楽しいけれど、魔力を回復し続けられる指輪の値段が最高値で、一千万するのを見て冷や汗が出た。普通に一緒に並んでいるんですね。


 太一郎さんはカゴに盛られている白い石の指輪を一つ選ぶと、店主に渡している。


「ありがとうございます、一万ルデイルになります。

 ご自分で魔力は込められますか? 容量の三分の一までなら無料でチャージも行っていますよ」


 なるほど、私のように魔力がない人は店主さんに魔力をこめてもらうのかしら。

 太一郎さんは自分で出来るらしくお断りしたけれど、異世界文化に感心する私の前で支払いが終わると、お店を出た。


「あの……指輪と言いながらサイズ合わせも何もしませんでしたが、号数は大丈夫ですか?」


「最終的に合うように縮むから、大きめを買ってつけるのが正しい方法なんだ。

 見た方が早いだろうな……そこの椅子にでも座ろう」


 路地に休憩用に置かれている椅子に座ると、太一郎さんが私の小指に指輪をはめた。

 うーん、かなりブカブカだ。指の上で回るどころではなく、弾けば高速回転すらさせられそうなくらい指との間に隙間がある。

 不安になって黒髪の悪魔をみたけれど、彼は気にせず指輪をつけた手を両手で包み込んでいる。


「……」


 聞きなれない言葉が響く。……これこそが魔法の詠唱だと気づいた。

 声が響くうちに優しい風が吹いて、彼に包まれている小指が温かくなる。

 太一郎さんの手のひらの暖かさと、小指を包むほんわかした熱を感じながら声を聞いていると……指輪が引き締まったのか、硬い感触が肌に触れた。

 悪魔の手が離れると白い指輪は黒く変わり、複雑な紋様が描かれている。

 彫金師にでも掘ってもらったみたいに、凹凸のある格好いいデザイン……石がシルバーリングに変わったような別物を、全角度から何度も見てしまった。


「太一郎さん、すごいです……ただの真っ白な指輪が、おしゃれなピンキーリングになりました」


「込められた魔力の種類で、守護の指輪は色や模様が変わるんだ。

 この指輪は、何があってもアサを守ってくれるように作っている。ケルベロスの攻撃も弾くだろう」


「込められた魔力によって……。

 じゃあこの指輪はウェディングドレスみたいに、白無垢からたいちろ……ティロウの色に染まったんですね」


「名前が途中で止まったのが惜しいな……あいたた、叩くな」


「許してください。感動が半減しそうですっ」


 ティロウってなかなか呼べないい。

 悔しさ紛れに肩たたきしたけれど、握りしめた小指にあるから太一郎さんを叩くと、私の指にも当たる。

 感触が慣れずに、つい見てしまった。


「あの……もしつける指がどこでもいいなら、左手の薬指ではダメでしょうか。

 毎日結婚指輪を付けていましたから、家事をするのにも慣れていますし。

 サイズが変わるなら、今から付け直してもいいですか?」


「いや……そこはわざと空けている」


「わざと? なるほど、悪魔の国だから禁止事項があるんですね。

 確か悪魔は左手の薬指から入るから、結婚相手を悪魔から守るために指輪を左手の薬指につけてきたとも言われていますし……悪魔にとっては空けておきたい指だということですね」


「いや、だから……俺の結婚指輪をつけてもらうために、アサにはその場所をあけておいて欲しいから、今回は小指を選んだんだ。

 他の悪魔に奪われないように、俺も封じておきたい指だからな」


 驚いたけれど、手を取った彼が懐かしそうに私の左手を見ている。


「この世界でも、また贈ろうと思って用意しているんだ。

 なのに守護の指輪がついていては、困る」


 ……私もプラチナの指輪を身に着けていた。

 転生したからあの指輪は持って来られていないけれど、不意に目に入ると太一郎さんがそばで見守ってくれている気がした。


「排水溝に流しかけた時には、買い直してもいいと言ったのに、気に入っているから嫌だと言ってくれただろう。

 あさに渡した指輪のデザインは覚えているから、できれば同じもののほうが付けやすいかと思って、こちらでも作らせているんだ」


 年をとって、しわしわの手になって、指が痩せた。

 気をつけていたはずなのに水仕事で流してしまって、太一郎さんになだめられながら業者を呼んで……排水溝トラップのところに偶然引っかかってくれていたのを救助した。

 大切だからその後は号数を下げてまで使っていた指輪を覚えてくれていたことが嬉しくて、何も言えなくなってしまう。


「今のようにどこでも売っている指輪ではなく、俺とあさの思い出通りにしようかと思っているんだ。

 だから……悪いが守護の指輪は小指に増やさせてほし、い……っと」


 思わず太一郎さんに抱きついた私を、彼も抱きしめてくれる。

 細身の悪魔の腕の中で息を詰めていたのに震えてしまうと、大切に胸に抱えてくれた。


「……これは、また女泣かせと言われてしまうな」


 妻に叱られるのが怖いなんて肝の小さいおじいさんに頷くと、それでも優しく背中を撫でてくれるのは彼が優しいからだ。


 新しい世界で出会い直した、大切なパートナーから贈られたピンキーリング。

 幸運を掴んで離さないなんて言い伝えのある場所を二人で大切に包んで、泣き顔も何もかも隠してくれる太一郎さんの胸で泣いてしまった。

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