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異世界転生した九十八歳のおばあちゃんです。転生先で再びおじいさんと出会いました。  作者: 丹羽坂飛鳥


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異世界デート

 太一郎さんのために早起きをして、今日も家事からスタートだ。


「奥様。ここは私たち専門職がやりますので。邪魔です」


 しかし洗濯物を洗って干すのは魔法があるらしく、メイドの仕事だから私にはやることがないと言われてしまった。

 担当のメイドにもお願いして洗濯方法を見せてもらったけれど、魔法はドラム式よりも便利だった。洗剤いらずでこの白さ、すごすぎる。

 拍手したら『持ち場にお戻りください』と優しく調理場へ促してくれたから、私も心置きなく朝食の準備を始めた。


「あらぁ、まだいたの? それともご主人様に粗相して部屋から追い出されちゃったぁ?」


 調理場でもメイドに色々言われたけれど、彼女たちが肉体攻撃ではなく精神攻撃が多めなのは悪魔だからかもしれない。

 魂を取るために口が上手いイメージだし、ゲームでもナイフ攻撃より魔法攻撃の方が回数が多かった気がする。

 私が調理する姿を見ながらメモをとっていたアイリーンも、準備が終わってエプロンを外す私を嘲笑った。


「料理がうまいことを利用してティロウ様に媚びたいんでしょうけれど、私たちが料理を覚えてしまったら、あなたなんて用無しよ。せいぜい今のうちに喜んでおきなさい」


 私も人生の最後の方は娘や孫にご飯はお任せしていたから、作らなくていいのは楽だと知っている。

 むしろ料理が美味しいのは認めてくれているなんて、アイリーンのツンデレ可愛さにほのぼのしてしまった。メモしてまで真面目に覚えようとしてくれてありがとう、反抗期だけど料理が覚えたくておばあちゃんに頼りに来てくれた孫みたいで可愛いです。


「というわけで朝ごはんも無事に終わって、お腹も一杯になりましたし。

 今度こそ……レッツ異世界!」


 ワープできる太一郎さんと手を繋いで、さっそく近くのハルニモフの街に出かけた。

 足が石床に着いてすぐに周囲を見回したけれど……完璧にゲームの世界観です、ありがとうございます。見渡す限り観光名所しかありません。


「すっ、すごいですよおじいさん、クリスタルが宙に浮いています。

 あっちには見たことのない巨大な鳥が飛んで……いや人……? もしかしてあれは本物のハーピーですか?!

 わあ、あっちには高くまで噴水が上がって……噴水のところにある青いクリスタルはなんですか、おじいさん。飾りですか?」


「目新しいことばかりで忙しそうだな。

 噴水のクリスタルは街に流れる水を浄化しているんだ。

 水魔法が苦手で、水道を引いて使っている悪魔もいるから……水道の施設がわりに利用していると言った方がわかりやすいか」


「水道……! ではあの大きな橋が水道橋でしょうか。

 すごい、海外の観光地やテレビで見たもの、そのままです……!」


 お上りさん状態を太一郎さんに説明してもらいながら歩いているけれど、道中には彼と同じく耳が尖り、尻尾が生えた人々が行き交っている。

 悪魔族の中でもヴァンパイアやサキュバスなど様々な種族が分かれていて、それぞれが自治領をもち、悪魔大帝の意思のもとで一つに固まっているそうだ。首都はとにかくいろんな悪魔が集まっているとも教えてもらえた。


「アサに一番最初に教えておいた方が良いのは、ワープクリスタルだろうな。

 買い物の最中に迷子になるようなら使って欲しい」


 そう、私も自分でワープがしたかったのだけれど……実は今朝、残念な事実が発覚した。

 現在の私が使える魔法は、せいぜいお部屋のランプの操作くらいだったのだ。『不老しか持っていない』とメイドにも言われたのは事実だった。

 魔力容量は成長させることも出来るらしいから、何度もランプをつけたり消したり、魔力を使う練習をしたけれど……お風呂のお湯もチョロリとしか出なかった。多分五十ccくらいだ。


「普通は転生したらチート持ちになって、魔法をバンバン使って世界中を震撼させるような魔王になるのではないでしょうか……練習して育つ系主人公もロマンがあって好きですけどね」


「? チートはよくわからないが……どうやら『神の寵愛を受けし者』は元々の魔力が少ないようだ。

 アヴィル帝国は多種多様な悪魔に合わせて、魔力が少なくても十分な生活ができるようになっている。

 アサは『不老』だけでも十分にすごいから、そう気にするな」


「うう、慰めてくださってありがとうございます、たい……ティロウ」


 しまった、失敗した。

 誤魔化しがうまくいかなかった私が顔を逸らすと、太一郎さんに繋いだ手を指先でくすぐられて、ますます顔が熱くなる。


「出がけにも伝えた通り、今日はアサが俺の名前を正式に呼べるようになることが、俺の目標なんだ。

 先ほども一度『おじいさん』と呼ばれているな……デートのうちに直していこう」


 まるでデートが教育の場みたいです。

 膨れて見せたけれど、練習するよりも先にワープクリスタルに着いてしまった。

 子供の背丈くらいの四角い台座には、トパーズみたいな黄色いクリスタルが乗っている。

 触った人が目の前から消えたから、開いた口が塞がらずに背の高い悪魔を振り返っていた。


「台座に設置されたクリスタルに触れば、今のように望んだ行き先に飛べる。

 邸宅にも戻れるはずだから、一度実践しておこう」


「場所指定で瞬時ファストトラベルとは、なんて便利な魔法なのでしょう……」


 私も恐る恐るクリスタルに触る。

 すると不思議な感覚が広がって、世界を俯瞰しているような半透明の地図が目の前に広がった。

 私の飛べる場所はここよりはるか北にある塔と、街の近くにある太一郎さんの邸宅の二つだ。

 なるほど、一度寝床にした場所に飛べるようになっているのかもしれない。


 邸宅に行こうと決めると、風景が変わって建物の中に立っていた。

 どう見ても今日出てきた寝室だ。わかっているのにぐるぐる見回してしまううちに、足音が一つ聞こえた。


「迷子になったら、必ずここに戻ってくるように。そうすれば俺も不安にならなくて済むからな」


 太一郎さんが私の手を取ると、再び街中へと戻してくれる。

 ワープクリスタルが近くにあるからもう一度触ってみたけれど、行き先は増えていない。今も邸宅と塔の二箇所だけだ。


「あれ? 太一郎さんはここも寝床にしたんですか」


「俺は自分で飛べるから、行き先指定で飛んでいる。だから仕事場でも、どこへでも自由だな」


 もしかしてチート持ちなのは、うちの夫だったのでしょうか。

 二百年すでに生きてきたらしい悪魔を振り返ると、彼が繋いだ手をくすぐってきた。


「さて、アサ。もう一度、俺のことを呼んでみて欲しい」


「え? ……あ。……むう……っティロウ……?」


「そうだ」


 私のことはそのまま呼べば良い夫に改めて膨れると、笑った彼に手を引いて前に進まれてしまった。


「家庭教師とは連絡がついて明日から授業予定になっているが、俺の知り合いだから『太一郎とは誰のことだ』なんて突っ込んで聞かれてはアサも説明に困るはずだ。

 あだ名と言い張ってもいいが、呼び名は一応練習しておこう」


「はい……頑張って言い慣れます」


 メイドたちにも不思議がられているし、何事も練習だ。

 素直に名前を呟き始めた私を見て、太一郎さんが微笑んでいる。

 綺麗な笑顔を見てドキドキしてしまったから景色に目を向けたけれど、木箱の端で眠っている子犬が目についた。


「あれ? あの子、三つ首……もしかしてケルベロスの赤ちゃんですか!?」


 フカフカの毛並みの子犬が丸くなって、店の前に積まれた木箱で気持ちよさそうに眠っている。

 あまりの可愛さに近づくと、しかし力強い腕にすぐさま引き戻された。


「幼生でも凶暴だから、迂闊に近づくと食いつかれるぞ」


 私のいた場所には、鎖をいっぱいに伸ばして唸っている子犬がいる。

 地獄の番犬とも呼ばれているケルベロスの獰猛さに血の気が引いていると、噛むのを諦めたらしく子犬は元の場所に戻って行った。


「人を寄せたくない場所に使われていることが多いから、子犬でも見かけた場合は離れた方がいい。

 主人に『この場所を守れ』と命じられていれば、悪魔大帝にすら噛み付く優秀な番犬だからな」


 ひええ、相手の力量とか関係ないってこと!?

 でも力強い腕が守ってくれたから、今回は無事だった。

 緊張していた体から力が抜けると、太一郎さんの胸に抱かれていることに気づいて……よく考えたらこれもドキドキイベントではないかと気づいてしまった。


 街中なのに、パートナーに密着して寄り添っている。

 気の小さいおじいさんのはずなのに、平然としている姿が心強い。太一郎さんにとっては歯を剥き出したケルベロスも怖くなかったということだ。

 改めて背の高い悪魔を見上げると、目が合ってようやく状況に気づいたらしく、照れくさそうになった彼が腕を離した。


「助かりました。ありがとうございます」


「いや、大したことはしていない。

 ……アサには先に守護の指輪を買った方がいいな。こちらに魔法具の店があるんだ、行こう」


 異世界歴の長いおじいさんに手を繋がれて、中世みたいな石造りの街並みを進む。

 手つなぎデートなんてさっきまで無意識にしていたはずなのに、繋いだ手に汗をかいてしまいそうで焦ってしまう。


「……こうして二人きりで歩くのも、久しぶりだな」


 話題を作ってくれたのに、ますますデートを意識してしまった。照れ臭い。


「さ、最近は手を繋ぐのも孫とひ孫ばかりだったので、繋ぐ手が小さかったんです。

 だからおじいさんとこうしているのは、慣れないので……手加減してください……あ」


「……どうする、気付いたなら言い直すか?」


「くうう、言い直しませんよ、おじいさんの意地悪っ」


「ほら、また間違えているぞ」


 久しぶりに恋人とデートしている感覚がくすぐったくて、名前にまで気が回らないんです。

 笑っている悪魔に少しだけでも仕返ししようと恋人繋ぎに直すと、腕組みもして密着した。


「ね、太一郎さん。私のドキドキ、伝わりますか?」


 胸の谷間に腕を挟んでいるから、少しでも心臓がバクバクなのが伝わりますようにと押し付ける。

 細身の悪魔が下げた耳の先が赤くなっているから、私の顔が熱くても仕方ないって、うつむいた。


「……大好きだった人とデートしているのに、平然となんかできないんです。

 頑張って『ティロウ』と呼べるように、意識しますから。

 間違えても、ちょっとくらいは許してください……」


 照れ臭さもあって、お互いの体温ばかり感じてしまう。

 中身はおじいさんとおばあさんなのに、それ以上の言葉も出ずに初々しいデートを楽しんでしまうと……目的のお店にもあっという間に着いてしまった。

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