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異世界転生した九十八歳のおばあちゃんです。転生先で再びおじいさんと出会いました。  作者: 丹羽坂飛鳥


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悪魔の研究機関ティルダーロ

 ティルダーロは国家的に重要な研究機関だそうだ。

 魔法や錬金術、ありとあらゆる事象を解き明かし、利用できる形にして国家繁栄へと繋げていく。

 施設のイラストを見せてもらったけれど、広大な首都の中で最も巨大な建造物となっていて、内部は厳しく人員などが管理されているそうだ。

 優秀な生徒は学業を修めたら、その門戸を叩いて試験に挑む……家庭教師にきたバルデル先生に、そう教えてもらいながら。


「ティルダーロの見学許可が出たから、今日は課外授業として行こうぜー」


「え。バルデル先生、国家機密を扱うような施設なのに、そんなに気軽に許可をいただけるんですか?!」


「俺もティロウも関わってるから平気。

 無理だったら許可自体おりないって。行っても門前払いされる場所だから、いいって言われたうちに潜り込もうぜ?」


 社会科のバルデル先生にそう言われた私は、一も二もなく頷いた。

 なぜなら太一郎さんのお仕事は、生前は一切見ることができなかったからだ。会社名だけ知らされて、どんな場所で働いているのか定年しても知らされなかった。


 というわけで。


「……す、すごい……」


 首都にあるティルダーロの施設の前に、私はいる。

 現代でお買い物に行った首都圏のショッピングモールよりも超巨大な建物が、目の前にある。

 しかし地図などの施設案内は何一つない。不便さこそ追求した場所だと、引率のバルデル先生が教科書を示している。


「中を知る悪魔しか歩けないようになってるし、知らないやつが進むと確実に迷う場所だ。

 内部は見える範囲でも入り組んでるから、引率とは絶対にはぐれるなよー」


 フラグが立った気がしたけれど気のせいですよね、先生?!

 バルデル先生にもらった許可票を首に下げて気合いを入れると、守衛の悪魔に中へと通してもらえた。

 心配したらしく入り口まで迎えにきていた太一郎さんも、白衣姿で気恥ずかしそうに尻尾を揺らしている。落ち着きがない。


「……まさか本当に連れてくるとは思っていなかった」


「お前の仕事を何一つ知らないって言ってたからな。一度くらい見せてやれよ。

 じゃ、俺はここまでにするわ。あとは任せたぜ」


「あら? バルデル先生が授業をするわけではないんですか」


「ティロウでも同じことは説明出来るし、こういうことは一番詳しいやつに教えてもらった方が良いからな。

 ってことで俺はブラブラ時間潰ししてるぜ、またなー」


「働け」


 なるほど、ひ孫たちが遠足の工場見学ツアーで先生方と別れて行動し、中をよく知る工場長が全部教えてくれたと言っていたようなものだ。


「……」


 バルデル先生は本当に、どこかに行ってしまった。

 真面目な研究機関ではあの気さくさが救いになっていたから、少々不安になってしまう。おばあちゃんだって知らない場所は苦手なんです。

 そんな私に気づいたのか、太一郎さんが手を伸ばして……なんと繋いでくれた。

 さらに、そのまま一緒に歩き出してしまった。


「え、あ、あの。お仕事の場所なのにいいんですか、ティロウ。

 こういうこと、お嫌いだと思っていました」


「知り合いのいる場所ですることではないが、ここは一度はぐれると出られないからな。……安全対策だ。

 移動魔法も探索魔法も、内部は全て妨害するようになっている。

 悪魔から研究を盗んでやろうと、たまにコボルトなどが入り込んでいることがあるが、もれなく骨で見つかるんだ。侵入者を探したら、研究科が標本に使っていたなんて逸話もある」


 ひええ、なんという場所でしょう。

『神の寵愛を受けし者』も珍しいみたいだから、かっこうの研究材料にされ……あ、そもそも現在進行形で実験体でした。


 でも今日はバルデル先生がせっかく許可を取ってくださったのだから、勉強しなくては。

 滅多にない機会だから、周囲にもちゃんと目を向ける。

 太一郎さんの手を握りしめてしまっていたけれど、彼が恋人繋ぎに直してくれた。絡み合った分だけ安心して、自分のペースで歩けている。


「何か質問があれば言ってくれ。答えられる範囲で答える」


「質問……ええと、じゃあ……身分を示すカードを持っている人と、持っていない人がいるのはなぜですか?」


「生体認証ができるかどうかの違いだな。

 アサのように魔力が少なくても、知識によってティルダーロに入っている者もいる。

 その場合はカードに込められた魔力を使って認証するんだ」


「なるほど……お仕事中のティロウは白衣なんですね。似合います」


 あら、太一郎さんったらネッククーラーの電源を入れたわ。暑かったのかしら。


「はっ、ちっ違いますよ、よこしまな質問ではなくて、白衣も着ている人と着ていない人がいましたから。

 ティロウは着る方なんだと思っただけです、決してコスプレ的な意味合いではないです!」


「そ、そうか。……仕事の内容によっては、汚れることもあるからな。

 基本的には着ているし、着る場合は洗濯も施設内で行われている。

 研究成果はかけらも持ち出さないことがルールだ。無菌室くらい厳しい部署もあるから、その辺りは今回の見学範囲には含まれない」


「なるほど……服装規定などもないみたいですし、ネッククーラーも使用できるんですね。

 使い心地はいかがですか? リモコンの赤外線みたいに、他の何かと干渉したりしませんか」


「涼しいし、乾燥するどころか肌も潤うから手放せなくなりそうだ。

 同じ部署で働いている仲間にも羨ましがられた。

 いい出来だから鉱山労働者などに、真似したものを売り出すそうだ。そこの『第二魔法学研究室』で試作品を作っているが……止めるか?」


「まさか。バルデル先生が教えてくれましたけれど、悪魔大帝ディールの望みは『魔石をよりよく使って国を発展させること』なのでしょう?

 でしたらこの国の一員として、私にも良い行いが一つできたということですね」


「普通は真似されるのを嫌がると思うが。……商売っけがないな、アサらしい」


「太一郎さんが愛用してくれていたことがわかるのが、一番嬉しいです。

 皆さんに羨ましがられるくらい使ってくれたんですね、作った甲斐がありました」


 尖った耳の先が赤くなったが、黒髪に碧眼のアイドル顔の男性は、少しネックレスをしているだけで色気が増す。格好いいし、その意味でも作ってよかった。

 歩いていると不意に熱気が伝わってくる場所があって、壁には『高温注意』という文字がかけられている。


「大きな寒暖差のある場所や『劇物注意』『腐敗注意』など危険な場合は必ず扉に注意書きがされている。

 浅い層は研究成果を盗まれることもあるから、一般的になる物事が研究されているが、迂闊に扉を開けないようにしてくれ」


「開けると守衛さんに捕まるんですね?」


「その程度ならいいが……たまに偽物の扉があってな。捕まった先が実験好きのマッドサイエンティストへの転送トラップだったりするんだ。

 身分が証明できなければ……どうなるか分かるな?」


 やだこわい。

 研究員としてお仕事している太一郎さんの説明を受けながら、繋いだ手を時折確かめながら、社会科見学を楽しむ。

 どこをどう進んだのかも分からないうちに『高温注意』の部屋の近くに太一郎さんが手を触れると、何もないようにしか見えなかった壁が開いた。隠し扉だ。


「ここが俺の研究室だ。今はアサも知っての通り、不老を研究している」


「まあすごい……扉が開いても先が見えませんし、トップシークレット感がすごいですね。

 ここも見学禁止エリアですよね?」


「そうだ。中には他の研究員もいるから、アサを連れては入れない」


「承知しました。同僚の皆様へのご挨拶はできませんが、何卒よしなにお伝えください」


 妻として深々と頭を下げると、彼も笑って頷いてくれた。


「あれっ、いま声が聞こえなかった?」


「もうお嫁ちゃんきたんじゃない!?

 急いで麻酔と媚薬持ってきて、ティロウも放り込んでから排卵誘発剤投与……」


「観察記録用の魔石ってこれ!? 何発分!?」


 しゅんっ。


「離れよう。会わせられるような連中じゃない」


 何だかエ◯本展開になりそうな気がしたので、手を引かれるまま急いで走りました。見られながらはごめんなさい、趣味じゃありませんんん。


 必死に走ると追っ手からも離れられたらしく、太一郎さんが速度を緩めて止まった。警戒が終わると肩を落としている。


「実験管理が好きな研究者は、倫理観も違ってくる。悪魔らしく何でもありだ。

 真っ当な同僚ではなくて悪かった」


「い、いえ……逃避行になるなんて思っていませんでしたけれど……ふふ、ちょっと楽しかったです」


 太一郎さんと手を繋いで逃避行なんて、初めてだ。彼も苦笑している。

 でも勘違いしてほしくないから、繋いでいる手を引いた。


「あの、ティロウにお伝えしたいんですが」


「ん?」


「ええと、お耳を拝借……」


 お願いすると背の高い彼が屈んでくれたから、悪魔らしく尖った耳に近づいて、こっそり声を出した。


「おうちで二人きりなら、いいですよ。媚薬とか色々しても。

 だって太一郎さんの赤ちゃんは欲しいですからね?

 一緒に不老になりたいので、おうちでなら思う存分してもいいです……あら?」


 真っ赤になって顔を覆ってどうしましたか、悪魔さん。私も本気なんですけれど。照れられると恥ずかしいんですけれど。肩たたきをご希望ですね、ぽかぽか。


 バタバタすることもあったけれど、充実のティルダーロツアーは無事に終わった。

 最初に立ってしまった迷子フラグも無事にブレイクして入り口に戻ると、バルデル先生と合流する。


「ほはへひー。ほーはっは?」


 ……バリボリと音を立ててお煎餅を齧っているから、どこかに添乗員控え室のような場所があるのかもしれない。

 ティロウはこめかみを揉んでいるけれど、赤毛の不良にしか見えないバルデル先生は飲み込んで平然としている。


「おかえりー。どうだった、アサちゃん。ティルダーロの見学は勉強になった?」


「はい、とても素晴らしい場所でした。

 ティロウも説明してくださってありがとうございます、お時間頂戴しました」


「大したことはしていない。

 バルデル、あとは頼んだぞ。気をつけて帰ってくれ」


「おうよ、任せておけって。それじゃあアサちゃん、行こうか」


 建物を出て守衛さんに許可票を返すと、私たちはあっという間に邸宅に戻っていた。

 ぽんぽん、と頭に触れる手があって、見上げるとバルデル先生だった。


「勉強頑張ったら、アサちゃんならティルダーロへの入所もできるよ。これからも頑張ろうぜ」


「え。私が、……ですか?」


「見込みもないやつをわざわざ見学に連れて行かないって。

 将来はティロウと一緒にこの国の繁栄に貢献しよう。期待してるぜ?」


「は……っ、はいっ、がんばりますっ」


 生前の私は、太一郎さんを家で待っているしか出来なかった。

 でも……もしかしたら同じ場所で、私にも活躍できる分野があるかもしれない。

 そう示してくれるバルデル先生は、やっぱり立派な教育者に思えて……太一郎さんが認めているのもわかる気がした。

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