明治7年(1874年)4月 アメリカサンノゼ アルビソ駅 伊達正
約5年振りのサンフランシスコだ、やはり大きい。あの頃よりも、レンガ造りの倉庫や家屋が増えている。ここもまた、急速に発展を遂げているのだ。正宗と共に船を降りる。その目は、見たこともない景色によって輝いていた。自分の話しかける。
「どうだ、凄いだろう」
という声など、まるで耳に届いていないかのように辺りを見廻している。そんな正宗を促し、荷物を受け取ると鉄道駅へのハックニー・キャリッジ(馬車)へと乗り込んだ。
前回はフェリーでサンフランシスコ湾を渡って、オークランドへ向かったが。今回は正宗を連れての旅なので、出来るだけ色々と見ながら行く。鉄道でサンノゼへ、そこで乗り換えてオークランドへの道を選択した。ここでも正宗の目は、驚きと好奇心に満ち溢れていた。日本の蒸気車の一回り大きい車体を食い入るように見ている。しかもそれが何台も連なっているのだ。この子の頭の中では、見たものすべてが新しい世界として刻まれているのだろう。
駅を悠然と進み出る鉄道が、日本で体験したそれとは全く違う速度まで達した時。正宗の顔はわくわくを超えて、きらきらと輝いて見えた。息子のこんな顔を見られただけでも、アメリカに連れて来て良かったと思えた。蒸気車は進み、3時間と掛からぬうちにサンノゼへと到着した。乗り換えに鉄道を降りると、これから乗る鉄道に農産物を積み込む人々がいた。その中の一つ馬車に、ちょこんと座った正宗と同年代の男の子がいた。気になったのか正宗が、その男の子に向かって話しかけている。自分の胸をちょんちょんと叩いて。
「マサムネ…」
と言い、君はと問うように男の子に掌を向けた。男の子は少し戸惑っていたが、理解したのか。
「…アマデオ」
と答えた。そのやり取りを丁度荷を積み終えた、男の子の父親が見ていてアマデオの頭を撫でた。
「すまないな、この子はまだイタリア語しか話せんのだ。坊っちゃんはアマデオとそう変わらん歳に見えるが、何歳かな?」
イタリア語訛りの英語に、正宗は困惑気味に自分を頼るように見ている。
「申し訳ない、この子も日本語しか話せないのです。同じ年頃の子が気になったのか、身振り手振りでお互いに名を知ったところです」
そう言うと、アマデオの父親は愉快そうに笑い。
「そうか、それは良かった。改めて名乗らせて貰おう、アルビソで農産物を扱っているルイージ・ジャンニーニだ。で、これが息子のアマデオ」
そう言って、アマデオの頭をぽんとたたいた。
「私は今朝サンフランシスコに着いた、日本の商人で名を伊達正と申します。それで、この子は正宗。5歳になります」
こちらも正宗の頭を撫でて、言った。
「そうか今朝着いたばかりか、アルビソでよければ案内してやりたいが…生憎この後も仕事でな」
頭を搔きながら、すまなそうな顔で言った。
「いえ、こちらも荷を積み込んでいた鉄道でオークランドへ向う途中なので…。もし帰りに会うことがあったら、その時は案内をお願いします」
そう社交辞令気味に、挨拶を交わして別れた。この出会いが後の正宗にとって、大きな意味を持つことなど今は誰も思わなかった。




