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明治5年(1872年)5月 北海道胆振国 室蘭郡室蘭港 伊達正

1つ気になっていることがあった。伊達家を退かせるため、訪れた亘理伊達家のことであった。どこの家よりも石高の増産に寄与し、最期まで進んで嫌われ役である。調停役として宗家に尽くした家が、一時は2万石を誇った領地が58石にまで減らされたのである。家臣・一族郎党を養うため、北海道は有珠郡へと入植し苦しんでいるらしい。北海道はロシアからの防衛という面からも、今後のこの国の食糧基地という観点からも重要な地だ。それを支えることこそ、生きた金の使い道…それを忠七に教えるためにも北海道は有珠郡へ行くことを決めた。


忠七を連れて行くので、正宗も伴って横浜から室蘭への船に乗った。正宗にとって、初めての船旅だ。

「北海道にこのような投資をして、何か得るものはあるのでしょうか?」

米や味噌、油に鉄製の農具など物資を積んでの航海だ。忠七の疑問は、尤もだと思う。

「これは長い目で見れば投資だろう、だが現時点では寄付に近い。忠七は蝦夷地をどう見ている」

暫し、考え込んで忠七は答えた。

「今は開拓を始めて間も無く、この先にどうなるかはまだまだ見通せません」

北に意識の無い商人ならば、同じように答えよう。

「北海道はこの国にとって、重要な防衛拠点になるだろう。忠七、防衛拠点に必要不可欠な物とは何だと思う?」

忠七は即座に、答えた。

「人と武器、それに食糧でしょうか」

至極、真っ当な答えだ。

「半分はその通りだ。もう半分は、そこに暮す人々だ。これがなければ、一体自分達は何を守るために戦っているのか希薄になり士気も上がらない」

忠七の理解が、追いつくのを待って続ける。

「新政府は徴兵制を模索しているように、北海道を守るためには北海道の住民を徴用するだろう。南下するロシア軍を食い止めるためにも、北海道への移住を促進し食糧生産を加速させる」

さらに続けて、北海道の重要性を語った。

「北海道の中心には関東平野に匹敵する平地が広がっている、ここを開拓出来れば今の倍…いやそれ以上の人々を養うことが出来るようになるだろう」

ここまで聞いて、忠七は自分なりの答えを語った。

「そのために、この資材を投資なさるというのですね。これが世の役に立つところ、という訳ですか」

彼なりの結論に、満足気に頷いて。

「そうだ、今は無駄な金の散財に見えるかもしれないが、必ずや新しい価値を伴って却ってくる」

そう話をしている間に、船は室蘭の港へ滑り込んでゆく。人足達の手によって、乗ってきた蒸気船から和船へと船荷が積替えられてゆく。ここまで来たら、あと一息で目指す有珠郡だ。5月にはしては寒過ぎる空。雲ひとつない空は、これから踏みしめる広大な大地を映したように、どこまでも高く澄み渡っていた。

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