明治4年(1871年)5月 東京 日本橋浜町 三野村利左衛門別邸 伊達正
あの勝麟太郎との対峙以来、何が変わったというわけではない。だが心の奥底にあった問題に、自分なりの結論は出せたような気がしていた。瀬兵衛様は未だ、ご自身なりの答えを出せずにいるのだろう。もし、それが出せたなら次への一歩を踏み出すように思える。そして、今日訪れた利左衛門殿は区切りをつけたように思えた。
やっと2歳になったばかりの正宗を伴って、日本橋は浜町にある利左衛門殿の別邸を訪ねていた。ここには昨年、見つけらた道子様国子様母娘が暮しておられる。
「お久しぶりにございます。長らく不沙汰にて、申し訳もございません」
そう言って、頭を下げた。
「これ、正宗。お前も同じようになさい」
正宗に促すと、ちょこんと座って頭を下げた。それを微笑ましげに見られていた、道子様が。
「まあ、愛らしいこと。国子と1つ違い伺っていますが…難義なことでしたね」
と楓の死を、慰めてくれた。
「いえ、道子様国子様に比べれば何程のことはございません。これまでは力になれず、申し訳なく思っております。何かありましたら、何なりとお申し付けください」
その言葉に、道子様は。
「ならば、国子の遊び相手になるべく頻繁に顔を見せてください。正宗は勿論、貴方も父親代わりとして国子に接してあげてください」
柔らかな笑みを向け、正宗と自分に軽く頷かれた。そうだ、国子様には父親が、正宗には母親がいないのだ。それを思うと、今までの自分を省みて正宗の頭を優しく撫でていた。
「ではお言葉に甘えて、なるべく多く伺わせていただきます」
そう言って、頭を下げる自分を真似て正宗も同じく頭を下げた。幼い仕草に、自然と頬がゆるむ。正宗を国子様の元へと促すと、まだたどたどしい足取りで国子様の傍へちょこんと座った。まだぎこちないやり取りに、ふと上野介様と楓の顔が浮かぶ。この様を、見せてあげられなかった後悔と無念の思い。ただ、今はこの温かな情景だけが心を癒やしてくれている。そんな気がした。




