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明治3年(1870年)9月 摂津国神戸 神戸港ウォルシュホール商会 伊達正

まだ帰国する前の2月に、奇兵隊の脱退騒動が起こったという。徴兵制への移行を、士族である奇兵隊員が反発した結果である。それに同調するように、件の前原一誠も職を辞して萩へと戻ったという。その前原一誠に会うため、船で神戸の港を目指した。何故神戸港なのか?それは商人である自分が、現在神戸にいるジョン・グリア・ウォルシュに会う体を取っているためだ。


神戸港は未だ発展途上にある、といった所だ。まだ開港から2年しか経っておらず、発展速度は早いがまだまだこれからの港。その神戸港でも居留地2番地という、一等地に商会を構えているのがウォルシュホール商会だ。その建前を守る意味でも、ジョン・グリア・ウォルシュに会うべく商会へと足を向けた。どうやら先客があったらしい。応接室の前で待っていると、ジョンが先客と部屋を出て来た。

「おお、タダシ・ダテ。何時、日本に戻ったのですか…失礼、こちら大坂で九十九商会を開設される予定のヤタロー・イワサキです」

と言って、紹介してくれた。

「土佐の大阪商会を仕切っています、岩崎弥太郎と申します…伊達正さんですか?坂本から聞いたことがあります。何カ国語も操る、天才が江戸にいると。その男を、口説いている最中じゃと」

久しぶりに、坂本さんの話を聞いた。

「ええ、近江屋の前に落とされていましたが…残念なことに共に仕事をすることは叶いませんでした」

何処か、懐かしげに語った。

「誠に惜しい男を亡くしました。あれが生きていれば、私もその下で働いていたかもしれませぬ」

岩崎殿も、何処か寂しげに語られた。

「では我々はもしかすると、共に歩んでいたのかもしれませぬな。そのような縁ならば、何か困ったことがありましたら遠慮なく頼ってください。今は横浜とニューヨークで、ダスティ商会という会社を営んでおります故」と言って、固く握手を交わして別れた。大阪商会を率いているだけあって、只者ではない。だが、この時の自分は知らなかった。目の前の男が、やがて日本有数の海運商となり、一大財閥を築き上げることになるなど。そして幾度も苦境を共に潜り抜ける、得難き同志となろうとは。

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