明治2年(1869年)11月 アメリカデトロイト パークデイビス社 伊達正
診療所での騒ぎを聞きつけて、二人の男達がやって来た。「パーク、デイビス聞いてくれ。この商人が日本の医薬品に関する書物を、翻訳して送ってくれると言うんだ」ダフィールド氏は喜びを、二人の男達に伝えた。「ニューヨークでダスティ商会を営んでいる、伊達正と申します」と、二人に挨拶をした。「この薬種商で資金面を担当している、ハーヴェイ・パークです」と言って、右手を差し出してきた。「よろしく」と短く答えて、握手に応じた。「同じく、ここの営業面を担当している、ジョージ・デイビスです」と挨拶してくれたので、同じく応じた。するとパークが、問いかけて来た。「デトロイトへは、書物の営業にやって来られたのですか?」素直に、当初の目的を話した。「いえ、デトロイトには投資先を探しにやって来たのです」と答えると、パークの目の色が変わったように。「我が社に、投資してくださるために来られたのですか?」気圧され気味の自分に代わって、ダフィールド氏
が。「そうじゃ無いんだ、そこの急患を運び込んでくれたんじゃよ」と宥めながら、説明してくれた。やや気を取り戻せたので、商人として答えた。「では、商会の代表としてお話を伺いましょうか」
応接室に通され、座るように促された。「率直にお聞きしますが、資金繰りが上手く行っていないと…」問われたパーク氏が、若干否定するかのように。「そこまで窮している訳では無いが、資金が潤沢な訳でもない」つまり、軌道に乗せるまでの運転資金ということか。「つまり将来性に投資し、共に歩んで行こうということですか」ここで考える素振りをみせつつ、切り返した。「ならば今、投資する必要性にはならないですよね。確かに魅力のある企業だとは思いますが、遠くニューヨークの私が支援するよりも近く…少なくともシカゴやクリーブランド辺りにいたならば考えたでしょうが」自分の言葉に、パーク氏の顔が歪む。「ただ、この会社の問題点は資金よりも他にあるように思うのですが」今度は明確な疑義に、パーク氏は問うてきた。「どのような問題点ですか?」一呼吸を置いて、答えた。「ダフィールド氏への負担が過剰ではないですか?診療所での臨床に薬品開発、さらには薬品の製造まで。これでは明らかにオーバーワークだ、この点を改善しないといずれダフィールド氏は潰れますよ」確信を突かれたように、パーク氏は黙り込む。「この点が改善されるのなら、十分に投資に値する企業だと思います。ただ、ここでこの会社が行き詰るのは忍びない。決して多くはないが、当面運転資金なら今ここで投資を考えましょう」その言葉に、やっとパーク氏の顔に光が戻ってきた。「では幾らほどをお考えで」そう問われ、少し考えた。ロックフェラー氏に投じた20万ドルに比べれば、ここは遥かに小さい商いだ。石油は人々の夜を照らし、薬は人々の命を繋ぐ。どちらも世に無くてはならぬものだ。「5000ドル」それでもパーク氏とデイビス氏は、安堵の色を浮かべている。決して大きな額では無いが、今の彼らには明日に進むための十分な灯火になるはずだった。




