慶応3年(1867年)11月 京都河原町 近江屋 坂本竜馬
大政奉還がなり、土佐藩の発言権は着実に向上していた。それは幕府に対してもそうだが、倒幕を推進する薩長に対しても同様だった。「竜馬、おまんはのう。これがみな済んだら、どうするつもりじゃ? 新政府で役付きにでもなるがか?」と、竜馬を訪ねていた中岡慎太郎が問うた。「役人になんぞなる気は、これっぱあもないぜよ。わしは好きな海へ出て、好きな仲間らあと、貿易いう大きな冒険をやるがじゃ。そんために船を出すがぜよ」たった今、届いた手紙を握りしめ続けた。「今届いた手紙にな、わしが天下一と見込んじゅう天才から、『共に冒険の旅へ出てもえい』ちゅうて知らせが来たがぜよ」波濤をきって進む海に、思いを馳せていたその時。階下にて物をひっくり返したような、音が響いてきた。「ほたえな、藤吉」と、従僕の山田藤吉に声をかけて間もなく。階段を乱暴に駆け上がる音と共に、襖が蹴破られる。「坂本竜馬だな、薩長との交渉材料のため死んで貰う」どういうことだ、誰かがわしを売ったのか。その思考を巡らせる前に、相手は斬り掛かってきた。なんとか傍にあった刀を手に取り、鞘で刃を防ごうと試みるが額に深い傷を負ってしまった。
微睡みゆく意識の中で、詫びていた。「すまん、おりょう……おまんを幸せにしちゃれんかった。すまん、正さん……あんたとの約束も守れんかったぜよ……」




