表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
23/72

慶応3年(1867年)10月 江戸駿河台 小栗忠順邸 小栗忠順

城を出ようとした矢先、最悪の報せが舞い込んだ。

――大政奉還。

幕府が預かる政を朝廷へ還し奉るという。

やられた。やはり将軍家やお偉方だけを京に置いておけば、碌なことにならぬ。とはいえ、こうなってしまっては今すぐ打てる手も無い。一度邸へ戻り、考えを纏めた方がましであった。


城より邸へ戻った折、急ぎ飛脚が門前に控えていた。「こちらの書状を、直接お渡しするよう横浜の伊達正様より仰せ遣っております」差し出された手紙をその場で開き、ざっと目を通す。「しばし待て。直ぐに返書をしたためる故」そう言い置いて奥へ引き返し、急ぎ筆を執った。「すまぬが、この書状を伊達正へ頼む」そう言って相場以上の金子を渡そうとすると、「結構でございやす。既に伊達様より十分に頂いておりますれば」飛脚は丁寧に礼をすると、颯爽と駆け去っていった。


翌日の昼過ぎには、早駕籠で軽装の伊達正が邸へ現れた。「書状を戴き、急ぎ馳せ戻りました」息を弾ませながら、目の前で深く頭を下げる。「心配をかけたか。確かに酷いことに相なった」何と言えばこの男を安心させられるのか、咄嗟には思いつかなかった。「滅相もございません。某などが上野介様を案ずるなど僭越とは承知しております。されど、居ても立っても居られず……」その言葉に、危うく涙腺が弛みかける。「――で、相場を見て、戦はまだ無いと思うのだな」気を逸らすように問い掛けると、伊達正はすぐに頷いた。「はい。思うに倒幕派は既に準備段階にはあったのでしょう。しかし、大政奉還で腰を折られたように見えまする」なるほど。確かにそれはある。「直前であるなら、塩がもっと高騰していてもおかしくはありません。兵糧は無論必要にございますが、多くの兵は戦へ赴くのです。物見遊山ではございませぬ故」やはりこの男は、次代に残すべき人物だ。「であるなら、次の一手で倒幕派が何をしてくるかが問題か」思案を巡らせていると、伊達正は低く声を落とした。「奴等は未だ若き天皇を奉しております。こちらを煽るような勅を戴き、攻め寄せてくるのが最も厄介にございます」そうだ。思慮の浅い跳ねっ返り共の暴発こそ、何より手に余る。「分かった。その辺りも含めてご注進申し上げよう。ただ……抑え込めるとも思えぬが」押し留めようともがけども、時勢は容赦無く襲い来る天災の如く、人を翻弄してゆくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ