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明治20年(1887年)7月 フランスリヨン グランホテル・デ・リヨン 伊達忠七

7月を目処にリヨンを目指した。丁度、この年の7月からクレディ・リヨネがドイツ銀行との提携を始めるというので、かつて取り引きのあったクレディ・リヨネの銀行家エティエンヌ・モレルに会うためにグランホテル・デ・リヨンに向かっていた。

「ハイ、変わらないなミスター伊達」

「君は随分と変わったようだね、何時からそんな他人行儀な呼び名で私を呼ぶようになったんだい」

そう返すと、ひとしきり二人で笑い合った。

「今も東京の三井にいるのかい?」

「いや、今は師の元で学び直すために横浜のダスティ商会にいるよ」

「それで、今日はどういう用件で久しぶりに連絡して来たんだ…何となく察しはつくが」

「そう、お察しの通りドイツ銀行の件さ。信用の置ける、ドイツ人の銀行家を紹介して貰えないか?」

「そう言うことなら、心あたりがないではないが…少々若いがあの男なら問題無いとおもう。今はベルリンに戻っているが、仕事もできるし人間性にも問題は無い。マクシミリアン・ベッカーという男だ、ベルリンを訪ねれば問題無いようにしておくよ」

「恩に着るよ、ついでと言ってはなんだがパリとリヨンで一人づつ市井を探ってくれる人間を用意してくれないか?報酬は十分に用意するから」

「おいおい、随分と注文が多いな。久しぶりに会ったってのにこの扱いかい?相変わらず人使いが荒いな…分かったよ、用意しておく。謝意はいずれ、形のある物でしてくれよ」

そう言うと、コーヒーを飲み干し。またな、と握手をして別れた。


ドイツは今、日本人が多く訪れている。政治・軍事・医学・農政など様々な人間が留学していた。人・物・金・情報が溢れ返っている。ここに留学生達の御用聞きの役回りが出来る、器用な男を置いておけば間違いなく色々な情報を掴む事が出来る。一人の男が思い浮かんでいた。佐々木源次郎、ドイツ語が堪能とは言えないが、器用に何でもこなさせる憎めない男だ。ドイツに赴く際は、あの男を伴って行こう。レストランのテラスで川面を眺めていると、川の汚泥の臭いに混じって香ばしいパンの匂いが流れ込んでくる。当時は嫌で仕方無かった匂いも、今は懐かしさのフィルターで美化されている。これから訪れるドイツでも、こんな風に思う時が来るのかもしれない。

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